生成AIの進化によって、投資の世界でも「AIに判断を任せる」ことが現実味を帯びてきました。決算要約、相場分析、銘柄選定まで、生成AIはもっともらしい答えを瞬時に返してきます。
では、生成AIは人間の投資判断に内在する癖や思い込みを正してくれる存在なのでしょうか。それとも、別の形でリスクを増幅させるのでしょうか。
日本経済新聞の記事は、行動経済学の視点からこの問いに切り込み、生成AIの「得意な領域」と「任せてはいけない領域」を示唆しています。本稿ではその内容を整理しつつ、実務的にどのように生成AIを投資に使うべきかを考えていきます。
人間は合理的に投資できない
投資行動は理論上、冷静で合理的であるべきとされます。しかし実際には、多くの人が感情や先入観に左右されます。
直近の好業績を過大評価して高値掴みをしたり、含み損を抱えた銘柄を損切りできずに保有し続けたりする行動は典型例です。こうした癖は初心者に限らず、経験を積んだ投資家にも共通します。
この非合理性を補正する存在として、感情を持たない生成AIに期待が集まるのは自然な流れです。
高性能な生成AIほど人間らしくなるという逆説
記事で紹介されている研究は興味深い結果を示しています。
生成AIに行動経済学の設問を解かせたところ、モデルの性能が高くなるほど、必ずしも経済学が想定する合理的な回答を選ばなくなったのです。
損失を避けたい、確実な利益を好むといった価値判断の場面では、高性能な生成AIほど人間に近い選択をする傾向が見られました。
これは生成AIが大量の人間の文章を学習しているため、人が陥りやすい判断の癖まで再現してしまうことを意味します。
つまり、生成AIに「買うべきか、売るべきか」と尋ねれば、それらしい理由を添えた回答は返ってきますが、それが必ずしも人間の思い込みを打ち消すとは限らないのです。
生成AIが本領を発揮するのは信念の点検
一方で、生成AIが強みを発揮する領域も明確です。
確率の計算、過去データの整理、仮説の整合性確認といった、事実認識に近い問いでは、高性能なモデルほど人間の誤りから離れた筋の通った回答を示しました。
生成AIは膨大な情報を高速で処理し、論理的なつながりの欠落や数値の矛盾を見つける作業を得意とします。
これは投資判断そのものではなく、判断の前提となる情報や見通しを点検する役割に向いていることを示しています。
投資での実践的な使い方
投資に生成AIを使う場合、次のような用途が現実的です。
- 決算短信や開示資料の要約
- 投資仮説の前提条件の整理
- 過去データに基づく確率や分布の確認
- 自分の判断に対する反対意見の洗い出し
特に有効なのは、自分の結論を入力したうえで「反対の論点を挙げてください」と求める使い方です。これにより、自分では見落としていたリスクや前提の甘さが浮き彫りになります。
ただし、生成AIの回答は学習データの偏りや質問の仕方に強く影響されます。
数字や根拠の出所を明示させ、別の情報源で確認する姿勢は欠かせません。
結論
生成AIは投資判断の代行者ではなく、思考を磨くための補助輪として使うべき存在です。
判断を丸投げすれば、人間の癖を克服するどころか、別の形で増幅してしまう可能性もあります。
自分自身の判断の癖を自覚したうえで、事実認識や仮説の整合性を点検する道具として使う。
生成AIの価値は性能の高さそのものではなく、問いの立て方と使い方によって決まります。
投資においても、最終的な責任を負うのは常に人間です。その前提を忘れずに、生成AIと向き合う姿勢が求められます。
参考
- 日本経済新聞「生成AI 投資に使うなら」2025年12月16日朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

