介護保険制度をめぐる見直し議論が、再び難しい局面を迎えています。
厚生労働省は2025年12月、介護サービス利用料の「2割負担」対象拡大について、年内結論を見送る方針を示しました。制度の持続可能性を高める必要性が指摘される一方、高齢者の生活への影響にも配慮が求められており、給付と負担の調整は簡単には進みません。
今回公表された見直し案は、2027年度から始まる次期介護保険事業計画を見据えたものです。本稿では、2割負担拡大がなぜ持ち越されたのか、その背景と同時に示された他の改革案の意味を整理します。
1.介護保険の自己負担構造と今回の論点
現在の介護保険制度では、サービス利用料の自己負担は原則1割です。ただし、一定以上の所得がある場合は2割、さらに高所得層では3割負担となります。
具体的には、年金収入やその他の所得を合算して
・280万円以上で2割
・340万円以上で3割
という基準が設けられています。
厚労省はこれまで、2割負担の対象を広げるため、新たな基準として260万円、250万円、240万円、230万円といった案を提示してきました。対象を広げれば給付費は抑制され、現役世代が負担する介護保険料の伸びを抑える効果が期待されます。しかし、その一方で、高齢者の家計への影響が避けられないことも明らかです。
2.結論が持ち越された理由
今回の見直し案では、2割負担の対象拡大について「年内に結論を出す」としつつも、具体的な基準額の決定は見送られました。
背景にあるのは、負担増の影響をどう緩和するかという問題です。厚労省が示している激変緩和策は主に2つあります。
1つ目は、毎月の自己負担増加額に上限を設け、7000円程度に抑える案です。
2つ目は、預貯金額が少ない高齢者については、所得基準に該当しても1割負担を維持する案です。
自民党内では、この2つを併用することが前提になるとの見方が強まっています。制度の公平性と生活保障の両立を図るため、単純な線引きではなく、複数の条件を組み合わせる必要があるとの判断が、結論先送りにつながったといえます。
3.ケアプラン有料化という新たな論点
今回の見直し案で注目されるのは、2割負担とは別に、ケアプラン作成への自己負担を導入する方針が示された点です。
ケアプランとは、介護サービスをどのように組み合わせるかを示す計画書で、これまで在宅介護では制度開始以来、全額が公費と保険料で賄われてきました。
見直し案では、住宅型有料老人ホームに入居する重度の要介護者などを対象に、ケアプラン作成費用の1割を自己負担とする方向が示されています。
これは、介護サービスの利用が特定の形態に集中するケースについて、一定の自己負担を求めることで、制度全体の負担を調整しようとする試みです。現役世代の保険料上昇を抑えるという政策目的が、ここでも明確に表れています。
4.地域・事業者を意識した制度調整
見直し案には、過疎地における介護サービス維持を目的とした施策も盛り込まれました。訪問介護の報酬体系に、月単位の定額制を導入する案です。
利用者が少なく、移動コストが高い地域では、出来高払い方式が事業者の撤退を招きやすいという課題があります。定額制は、こうした地域特性を踏まえ、サービスの継続性を確保する狙いがあります。
また、重度の要介護者が入居する有料老人ホームについて、事前登録制を導入する案も示されました。給付の適正化と制度運営の透明性を高める意図が読み取れます。
結論
今回の介護保険見直し案は、2割負担拡大という象徴的なテーマについて結論を持ち越しつつも、制度の持続性を確保するための調整を着実に進める内容となっています。
高齢者の負担増に対する配慮と、現役世代の保険料抑制という相反する課題の間で、政策判断はますます複雑化しています。
2027年度からの次期介護保険事業計画に向け、給付と負担の見直しは避けて通れません。今回の持ち越しは先送りというより、制度全体をどう設計し直すかを慎重に見極めるための時間確保と位置付けるべきでしょう。
参考
・日本経済新聞「介護『2割負担』拡大持ち越し 厚労省 保険見直し案」(2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

