ハラスメント防止やメンタルヘルス対策をはじめとする労働関連法制は、近年、大企業だけでなく中小企業にも等しく求められるものとなっています。就業規則の整備、相談窓口の設置、研修の実施など、制度対応はもはや任意ではありません。
一方で、中小企業のマネジメント現場では、制度対応がそのまま経営負担としてのしかかっている実態があります。本稿では、制度対応が中小企業のマネジメントにどのような影響を与えているのかを整理します。
中小企業における「制度対応」の重さ
中小企業では、人事・法務・総務といった専門部門を十分に持たないケースが多く見られます。経営者や管理職が、本来の事業運営に加えて、制度対応の実務を兼ねることは珍しくありません。
ハラスメント防止やメンタル不調への対応は、書類整備や手続きだけでなく、日常的な判断や対話を伴います。その負担は、限られた人員で回す中小企業ほど重くなりがちです。
管理職=経営者という構造的特徴
中小企業では、管理職と経営者が実質的に同一人物であることも多く、制度対応の責任が集中します。
大企業であれば、人事部や法務部、産業医と役割分担できますが、中小企業では経営者自身が部下の相談を受け、判断し、最終責任を負う立場になります。この構造は、経営判断とケア対応が切り分けにくい状況を生み出します。
制度の画一性と現場の柔軟性の衝突
労働関連法制は、一定の画一性を前提として設計されています。しかし、中小企業の現場では、個別事情に応じた柔軟な対応がこれまで重視されてきました。
制度対応を厳格に運用しようとすると、従来の暗黙の了解や柔軟な調整が難しくなり、職場の人間関係にぎくしゃくした緊張が生まれることがあります。制度が信頼関係を補完するのではなく、置き換えてしまう危うさが指摘できます。
メンタルヘルス対応の限界
メンタル不調への対応は、専門性が求められる領域です。しかし、中小企業では外部専門家との契約や相談体制を十分に整えられない場合もあります。
その結果、経営者や管理職が善意で対応を続け、負担を抱え込み、結果として自身が疲弊するケースも見られます。制度は存在していても、実際に運用する人的・時間的余力が不足しているという現実があります。
経営リスクとしての制度対応
制度対応を誤った場合、中小企業は経営上のリスクを直接的に負います。ハラスメント問題が表面化すれば、信用低下や人材流出に直結します。
一方で、過度に慎重になれば、指導や評価が形骸化し、組織の活力が低下します。制度対応は、コンプライアンスの問題にとどまらず、経営判断そのものに影響を与える要素となっています。
結論
制度対応が中小企業マネジメントに与える影響は、単なる事務負担の増加ではありません。限られた人材と資源の中で、経営とケア、指導と配慮を同時に成立させるという高度な判断を、現場に求めています。
重要なのは、中小企業に大企業と同じ水準の制度対応を形式的に求めることではなく、現実に即した支援や外部リソースの活用を前提とした制度運用です。
制度は、現場を縛るために存在するものではありません。中小企業の持続性を支えるためにこそ、マネジメントと両立できる形で設計・運用される必要があります。
参考
・厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」
・上田紀行「職場をさいなむ『軽度』うつ」日本経済新聞(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

