ここまで、AIを活用した税務調査の仕組みや考え方について整理してきました。
AIによる分析、調査対象の選定、不正とミスの区別、消費税調査との相性などを見てくると、税務調査の姿が大きく変わりつつあることが分かります。
最終回では、こうした変化を踏まえたうえで、私たちはこれから「納税」とどのように向き合っていけばよいのかを考えていきます。
税務調査は「敵」ではなくなりつつある
税務調査という言葉には、今も不安や緊張を伴うイメージがあります。
しかし、AIの活用が進む中で、税務調査は「見つけ出すための調査」から、「確認するための調査」へと性格を変えつつあります。
データに基づいて違和感がある部分を確認し、説明が成り立つかどうかを確かめる。
その意味では、調査は一方的に責める場ではなく、申告内容の妥当性を検証する場だと言えます。
「正しく納める」から「説明できる」へ
これまでの納税では、「正しい金額を納めていればよい」という意識が中心でした。
もちろん、適正な申告と納税が基本であることは変わりません。
ただし、AI時代においては、
・なぜその数字になったのか
・どういう取引が背景にあるのか
を説明できることの重要性が高まっています。
数字そのものだけでなく、その成り立ちまで含めて一貫しているかどうかが問われる時代です。
記録と資料の意味が変わる
帳簿や請求書、契約書といった資料は、これまでも税務上重要なものとされてきました。
AI時代には、それらの意味合いがさらに強まります。
後から帳尻を合わせるための資料ではなく、
「事業の流れを説明するための資料」
として位置づけることが重要になります。
日々の取引を丁寧に記録しておくことが、結果的に最大のリスク対策になります。
不安を煽る必要はない理由
AIと聞くと、「すべてを見抜かれる」「逃げ場がない」といった極端な印象を持つ方もいます。
しかし、AIは万能ではありませんし、不正の意図まで読み取ることはできません。
あくまで、データ上の違和感を見つけるための道具です。
誠実な事業運営をしていれば、AIの存在が直接的な脅威になるわけではありません。
税務の世界も「説明責任」の時代へ
社会全体がデータと説明責任を重視する方向に進む中で、税務の世界も例外ではありません。
納税者にとっても、行政にとっても、合理性と透明性がより重要になっています。
AI時代の税務調査は、その流れの中に位置づけられるものだと言えるでしょう。
結論
AIを活用した税務調査は、単なる取締りの強化ではありません。
データに基づいて合理的に確認を行い、公平性を高めようとする取り組みです。
これからの納税において大切なのは、
・数字の整合性
・説明できる記録
・制度を理解した処理
という基本を積み重ねることです。
AI時代の税務調査とは、不安を抱える対象ではなく、
「きちんと向き合えば怖くない調査」
だと言えるでしょう。
参考
・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
