AIを活用した税務調査という話を聞くと、「大企業の話ではないか」「中小企業や個人事業主には関係ないのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、国税庁がAI分析の対象としているのは、特定の規模の法人に限られたものではありません。
第5回では、中小企業や個人事業主の立場から、AI時代の税務調査とどのように向き合えばよいのかを整理していきます。
規模が小さくてもデータは蓄積される
税務データの分析は、売上規模の大小で線を引いて行われているわけではありません。
申告書や決算書、法定調書といった情報は、事業規模に関係なく毎年蓄積されていきます。
そのため、中小企業や個人事業主であっても、
・数年分の売上や利益の推移
・業種内での位置づけ
・経費構造の特徴
といった点は、データとして把握されています。
「目立たないから大丈夫」という考え方は、データ分析の前では通用しにくくなっています。
AI時代に特に意識したいポイント
中小企業や個人事業主が特に意識したいのは、数字の「一貫性」と「説明可能性」です。
毎年の申告が場当たり的になっていると、AI分析では違和感として捉えられやすくなります。
例えば、
・利益が出た年だけ極端に経費が増える
・売上の増減に対して原価や外注費の動きが合っていない
・消費税の課税売上割合が年によって大きくぶれる
といったケースでは、その理由を説明できるかどうかが重要になります。
記帳の質が問われる時代
AI時代の税務調査では、帳簿の有無だけでなく、その内容の整合性がより重視されます。
形式的に帳簿が存在していても、取引の実態と合っていなければ意味がありません。
特に、
・現金取引が多い業種
・家事関連費との区分が難しい事業
・外注や業務委託が多い事業
では、記帳の仕方次第で印象が大きく変わります。
「あとから説明する」のではなく、「最初から説明できる形で記録する」ことが重要です。
税理士との関係性の重要性
AI時代の税務調査において、税理士の役割も変化しています。
単に申告書を作成するだけでなく、数字の動きに不自然な点がないかを事前に確認し、説明の整理を行うことが求められます。
中小企業や個人事業主にとっては、
・自分では気づきにくいリスクを指摘してもらえる
・税務調査時の説明を一緒に考えてもらえる
といった点で、専門家との連携がより重要になります。
「恐れる」より「整える」
AIの話題が強調されると、不安が先行しがちですが、必要以上に恐れる必要はありません。
AIが見ているのは、あくまで数字の整合性や過去との比較です。
日々の取引を正確に記録し、申告内容に説明がつく状態を保っていれば、過度な心配をする必要はありません。
結論
中小企業や個人事業主にとって、AI時代の税務調査は「特別な対策」を求めるものではありません。
これまで以上に、日常の記帳と申告の質が問われる時代になったと言えます。
重要なのは、
・数字の動きに一貫性があるか
・その理由を説明できるか
・資料がきちんと残っているか
という基本的な点です。
AI時代の税務調査とは、誠実な事業運営をしている人ほど対応しやすい調査だと言えるでしょう。
次回は、AIと特に相性が良いとされる消費税調査について、その理由と注意点を整理していきます。
参考
・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
