住宅ローン減税改定案と危険地域除外の意味

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政府・与党が検討している住宅ローン減税の改定案が明らかになりました。今回の特徴は、従来の住宅政策としては異例ともいえる「災害レッドゾーンの新築を減税対象から除外する」という仕組みを導入する点です。防災・減災を重視した都市政策へ舵を切る象徴的な改正と言えます。また、中古住宅の支援拡大や食事代の非課税枠引き上げなど、広い意味での家計支援策も盛り込まれています。本稿では、改定案が示す政策方向と住宅市場・家計への影響を整理します。

1 災害リスクと税制を結びつける新しい発想

今回の改定案で最も象徴的なのが、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)など危険が大きい区域に新築を建てる場合は住宅ローン減税を適用しないという方針です。これまで住宅ローン減税は「住宅取得を促す制度」として機能してきましたが、今回は安全性を制度の入り口に明確に位置づけています。

除外されるのは以下に該当する区域です。

  • 土砂災害特別警戒区域
  • 地すべり防止区域
  • 急傾斜地崩壊危険区域
  • 浸水被害防止区域

いずれも自治体が特定の法律に基づいて指定する区域であり、一般的なハザードマップとは異なります。想定リスクが特に高い場所に限定されるため、制度の狙いは明確に「高リスク地域に新築を誘導しない」という方向にあります。

2 新築のみ除外、中古と建て替えは対象

一方で、同じ区域内であっても中古住宅や建て替えは住宅ローン減税の対象となります。ここには二つの政策意図が読み取れます。

  1. すでにコミュニティが形成されている地域に対して、生活の継続を過度に阻害しないよう配慮している
  2. 新築による人口流入を抑えつつ、老朽建物の建て替えは促す

防災リスクを踏まえた土地利用誘導としては、比較的バランスを取った設計といえます。

3 中古住宅向け減税の拡充

今回の改定では、中古住宅支援がさらに拡大します。

  • 中古の環境性能優良住宅のローン限度額:3000万円 → 3500万円
  • 子育て世帯などが購入する場合:最大4500万円

住宅価格の高騰で中古市場の存在感が増すなか、減税枠の拡充は実需層にとって大きなメリットになります。とくに環境性能を評価軸に置くことで、省エネ改修や性能証明取得の動きを後押しする効果も期待できます。

4 新築・中古共通で適用期間13年を維持

ローン残高の0.7%を控除する基本ルールは維持され、適用期間は13年で統一されます。新築・中古の区別が弱まり、「性能と立地」を軸にした住宅政策へ向かう流れがより強まっています。

5 食事代の非課税枠引き上げも同時に検討

家計支援策として、企業が従業員へ提供する食事代の非課税上限を月3500円 → 7500円へ引き上げることも打ち出されています。これは約40年ぶりの見直しとなります。

従来の基準が長年据え置かれたため、物価上昇局面では非課税制度を利用するために従業員負担を増やさざるを得ない状況がありました。今回の見直しは、実質的に家計の負担軽減につながります。

6 総合的に読み解く改定案の方向性

今回の住宅ローン減税改定案は、単なる「家計負担軽減策」ではなく、防災と住宅政策を統合する新しいステージへ進んだことを示しています。

ポイントとしては次の三つです。

  1. 危険地域の新築排除により、安全な地域への誘導を強める
  2. 中古住宅市場を住宅政策の主役に近づける
  3. 生活支援として食事代非課税枠の引き上げもセットにし、家計の可処分所得を底上げする

防災、住宅市場、家計支援が一体の政策パッケージとして再構成されつつある状況が浮かび上がります。

結論

住宅ローン減税改定案は、防災リスクを税制に組み込んだ点で大きな転換点となります。危険地域では新築を減税対象から外しつつ、中古住宅や建て替えは引き続き支援することで、地域コミュニティへの配慮も一定程度保たれています。中古住宅向けの減税拡充と合わせて、住宅市場は「安全性」と「性能」がより重視される流れが進むことが予想されます。

加えて、食事代非課税枠の引き上げは企業福利厚生を通じて家計を支える施策として注目されます。総じて、防災と住宅政策と家計支援を同時に進める構造的な改革と位置づけられる内容です。

参考

・日本経済新聞「住宅ローン減税改定案、危険地域を除外」2025年12月11日


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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