投資促進減税の新制度が始動へ 全業種対象の7%税額控除と即時償却が持つ意味

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政府・与党は2026年度税制改正において、企業の設備投資を強力に後押しする新たな減税制度を導入する方針を固めました。投資額の7%を法人税額から直接差し引ける税額控除、あるいは投資額を初年度に全額損金算入できる即時償却のいずれかを選べる仕組みです。対象は全業種に広がり、大企業だけでなく中小企業にも適用される点が特徴になります。背景には、国内投資の停滞、AIや半導体など戦略産業の育成、国際的な投資促進競争の激化といった課題が存在しています。本稿では、新制度の内容と狙い、企業行動への影響、中長期的な日本経済への含意を整理します。

投資促進減税の制度概要

新しい投資促進税制では、設備投資額の7%を法人税額から控除できる税額控除と、投資初年度に投資額の全額を損金算入できる即時償却のどちらかを選択できます。建物に関しては控除率を4%とし、機械装置・ソフトウエアなど生産体制の強化に資する資産が対象になります。

適用条件として、大企業は35億円以上、中小企業は5億円以上の投資が求められます。また、投資利益率が15%を超える計画であること、専門家による意見を踏まえた投資計画書を提出すること、2029年3月末までに確認を受けて5年以内に設備を使用開始することなど、一定の要件も設定されています。

税額控除を選択しない企業は即時償却を選べます。減価償却期間の長い造船業のような産業にとっては、初年度のキャッシュフローが大きく改善するため、資金調達面でのメリットが大きくなります。

政府はこの制度により年間4兆円規模の設備投資が誘発されると見込んでおり、減税規模は年4,000億円程度とされます。


なぜ今、投資促進減税なのか

背景の一つは「国内投資の弱含み」です。日本企業の投資水準はコロナ後に回復したものの、賃上げ・円安負担・金利上昇といった要因が重なり、大規模投資に慎重な姿勢が続いています。とりわけAI・半導体・造船・重要鉱物などの戦略分野は国際競争が熾烈で、政府としては国内に投資を引き留める強い動機があります。

また、海外でも同様の動きが加速しています。米国は即時償却の恒久化を盛り込んだ法律を成立させ、ドイツでも法人減税や減価償却優遇が導入されました。国際的な政策競争の中で、日本も投資立地としての魅力を確保する必要があります。

さらに、2014年に導入された類似制度が3年間で8万件以上活用され、国内投資額が80兆円から87兆円へ増加した実績も後押しとなっています。


税額控除と即時償却の企業への影響

企業の選択肢が増えることで、投資戦略の柔軟性が向上します。初年度のキャッシュフローを重視する企業は即時償却を選び、利益水準が高い企業は税額控除を選ぶ可能性があります。

税額控除の7%という水準は、過去の5%控除と比較してもインセンティブが強い制度です。加えて、米国の関税措置の影響を受けた企業には税額控除の3年繰り越し制度を認めるなど、サプライチェーンの再構築を後押しする仕組みも含まれています。

中小企業にとって投資額5億円以上という条件は簡単ではありませんが、AI導入・半導体関連設備・スマート工場化など大型投資を予定している企業には実効性のある支援となります。


国内設備投資の加速と地域経済への波及

国内投資が増えることで、製造業の生産性向上、サプライチェーン強靱化、雇用創出といった効果が期待されます。政府は「17の戦略分野」を掲げ、AI・半導体・造船など成長分野に投資を集中させることで国際競争力の強化を狙っています。

地方でも設備投資が進めば、工場建設やインフラ投資が地域経済に波及し、関連産業への需要増加が生まれます。特に造船業や素材産業は地域経済との結びつきが強く、投資加速は雇用や所得の押し上げにつながりやすい分野です。

一方で、政策減税が拡大することで財政負担が増し、財源確保の議論が先送りされている点は今後の課題になります。税制全体のバランスをどう取るかは、次年度以降の重要論点です。


結論

全業種を対象とした投資促進減税の導入は、国内投資を活性化し、日本経済の成長力を高めるための大きな政策転換です。税額控除と即時償却という強いインセンティブを組み合わせることで、企業が大型投資に踏み切りやすい環境が整います。一方で、財源の確保や対象要件の妥当性、中小企業の活用実態といった点は今後の検証が必要です。設備投資は経済の先行指標でもあり、今回の制度がどの程度企業の意思決定を後押しするのかは、2026年以降の重要な焦点となります。


参考

日本経済新聞「投資促進減税、全業種で 7%控除か即時償却」(2025年12月11日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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