生成AIの存在が大学教育の前提を大きく揺さぶっています。全国の大学で活用が進む一方、慎重姿勢を崩さない大学も多く、向き合い方は二極化しています。教育機関としての責務や、社会に送り出す人材育成の観点から、大学がどのように生成AIを活用し、そのリスクと可能性をどう評価すべきかが問われています。
大学の6割が生成AIを活用へ
日本経済新聞社が実施した学長アンケートでは、回答のあった532校のうち 316校(59%)が既に生成AIを活用 していると答えました。この割合は2023年の31%、2024年の47%から大幅に増えており、大学教育の現場で生成AIが急速に浸透していることがうかがえます。
活用目的としては
- 授業運営に必要な情報収集
- 問題・教材の作成
- 授業中の論点整理やブレーンストーミング
- 学生のレポート作成支援
などが多く、教員・学生双方の学習プロセスに生成AIが入り込み始めています。
一方で、成績評価への活用は83校、入試への利用は6校と少数ながら先進的な取り組みも見られます。滋賀大学は2025年4月から教育向け生成AIを導入し、学生のプログラミングや論文執筆、課題分析から成績評価まで踏み込んだ活用を始めています。
また、共愛学園前橋国際大学では、来春創設の新学部で総合型選抜にAI教材を組み込み、数学の学習とテスト合格を出願要件とするなど、入試構造にAIを取り入れた仕組みを検討しています。
4割の大学は依然として慎重姿勢
一方で、209校(約4割)は活用に踏み切っていません。
活用している大学でも「大学全体での活用」は17%にとどまり、多くが一部の学部や教員に限定した取り組みにとどまっています。
慎重姿勢の背景には、
- レポートや論文での不正利用
- 思考力や創造性の低下
- 成績評価の難しさ
といった懸念があります。
実際に「生成AIの生成物をそのままレポートに提出した不適切利用」は148校にのぼり、前年調査の倍となりました。生成AIの急速な普及に対して、ガイドライン整備や評価方法の見直しが追いついていない面が浮き彫りになっています。
大学の対応としては、レポートで生成AI使用の明記を求めるなどのルール形成が始まっていますが、4割の大学はまだ具体的な対策を講じていません。
生成AIを活用できる人材を育てられるか
大学が生成AIに慎重である理由は理解できますが、社会の変化は大学より速いペースで進んでいます。
PwCの調査によると、日本企業の生成AI活用率は米英と同等の55%に達している一方で、
「期待を上回る効果があった」と回答したのは13%にとどまり、米英の1/4に過ぎません。
これは、多くの企業が生成AIを「高度化ツール」ではなく「単なる効率化ツール」として扱っているためだと指摘されています。大学が生成AIを適切に教育へ統合できなければ、この傾向は是正されない可能性があります。
京都大学の飯吉透教授は、米国では生成AI前提でシラバスを全面改訂する大学もあると指摘し、日本の慎重姿勢を課題としています。学生が卒業後に生成AIを使いこなせるかどうかは、大学が生成AIをどう扱うかに大きく影響します。
大学は「使わせるかどうか」ではなく「どう使わせるか」を問われている
生成AIは、禁止を徹底するだけでは教育の質を高められません。
一方で無制限に許容すれば、学生の学習プロセスや評価の公平性が損なわれます。
大学が向き合うべき本質は、
学生が社会で生成AIを適切に活用できる力をつけること
です。
そのためには、
- AI使用の倫理・ガイドラインの明確化
- 成績評価方法の再設計
- 課題の出し方をAI時代に適合させる
- 教職員のリテラシー向上
- 学生の学習プロセスの可視化
といった取り組みが必要になります。
生成AIは教育現場にとってリスクも大きい存在ですが、同時に学習プロセスを深める強力なツールでもあります。大学の姿勢次第で、教育力・研究力の差は今後さらに広がることになります。
参考
・日本経済新聞「大学、生成AI活用6割 532校調査」(2025年12月9日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

