株価が上昇すると、家計の金融資産が増加し、消費が押し上げられると考えられています。しかし、現在の日本では株高による資産効果が中間層に十分広がらず、高額消費を享受する層と節約する層の二極化が強まっています。
本稿では、中間層が株高のメリットを感じにくい理由と、今後の家計戦略として何が重要になるのかを整理します。
1. 中間層の金融資産構造が変化を限定する
中間層の多くは、金融資産の大半を預貯金で保有しています。
家計調査を見ると、金融資産の構成比は次の傾向がみられます。
- 預貯金比率:50%以上
- 株式・投信比率:10〜15%台に留まる
- 高齢世帯ほど株式保有比率が高く、現役世帯は低い
株式の比率が低いため、株価が上がっても家計の総資産は大きく変わりません。その結果、消費に回る余力も限定的です。
2. 実質賃金の伸び悩みが消費を抑えている
物価が上昇する一方、名目賃金は伸び悩んでおり、実質賃金の押し下げが続いています。
日々の生活費の負担感が強まれば、たとえ株価が上昇しても「余裕が生まれた」と感じる現役世帯は多くありません。
特に影響が大きい項目は以下です。
- 食費の値上がり
- 教育関連費の負担増
- 住宅ローン金利の上昇リスク
- 生活必需品の価格上昇
こうした「固定費的な支出」が増える状況では、消費の伸びは限定的になります。
3. 将来不安が貯蓄志向を強めている
日本では、将来への備えとして貯蓄を優先する傾向が根強くあります。
- 年金制度への不安
- 医療費や介護費の将来負担
- 子どもの教育費負担
- 金利上昇や住宅コストのリスク
株価が上昇しても「今は使わずに備えたい」という心理が働き、資産効果が消費につながりにくい構造になっています。
4. 中間層の投資行動に生じているギャップ
近年、NISAの拡充やiDeCoの普及で投資意識は高まりましたが、実際の投資額には次の傾向が見られます。
- 積立額は月1万~3万円にとどまる
- 投資開始時期が遅めで、運用残高はそれほど大きくない
- 株価変動への不安から、一部は元本確保型を選択しがち
株高が資産増につながるには、一定規模の「投資残高」が必要ですが、その基盤がまだ十分に形成されていないのが現状です。
5. 恩恵を受けているのは誰か
株高の恩恵が大きいのは、金融資産を厚く保有する層です。
- 60代以上で退職金を運用している層
- 企業オーナーや外商顧客
- 投資信託や個別株を長期保有している層
- 高所得でNISA・iDeCoを最大限活用できる層
特に60〜70代は、株価の恩恵が家計に直接反映されやすく、高額品消費を牽引しています。
6. 中間層が取るべき戦略
資産効果が広がりにくい中間層こそ、次のような対策が重要です。
- 預貯金偏重からの脱却
長期の積立投資を家計の中心に据える。 - 固定費の最適化
通信費・保険料・住宅費の見直しで可処分所得を拡大。 - 制度活用の最大化
新NISAやiDeCo、企業型DCの活用範囲を広げ、運用資産を厚くする。 - ライフステージごとの運用戦略
子育て期とシニア期では投資余力が大きく異なるため、戦略の切り替えが必要。 - 景気変動に依存しすぎない家計設計
株価に左右されない安定的な資産形成を目指す。
結論
株高の恩恵が中間層に広がらない背景には、資産構造の偏り、実質賃金の伸び悩み、将来不安による貯蓄志向があり、投資残高の不足も影響しています。このため、富裕層と中間層との間で消費行動の差が広がっており、株高による景気下支えは限定的です。
中間層が今後の資産形成で重要なのは、長期投資の基盤を強化し、固定費を減らし、制度を最大限に活用することです。株価の動きに左右されない家計戦略が求められる段階に入っています。
参考
・日本経済新聞「株高で高額消費活況 消費増効果1.5兆円試算も」(2025年12月8日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
