人生後半のキャリア形成では、従来の組織の枠を越えて働く人が増えています。行政、民間企業、地域、NPO、スタートアップなど、複数の領域を行き来しながら価値を生み出す働き方は「越境」と呼ばれ、注目を集めています。特に50代以降のミドル・シニア層は、経験と判断力を背景に、社会課題の解決や地域振興に関わる役割で活躍の場を広げています。
本稿では、官民を横断する越境人材が求められる理由と、その働き方が人生後半と相性の良い背景を整理します。
経験を社会に還元する働き方が広がっている
これまでのキャリアでは、行政・企業・専門職といった区分の中で、同じ領域でキャリアを積み重ねることが一般的でした。しかし、環境問題、人口減少、地域経済の衰退、医療・福祉の負担増など、社会の課題が複雑化したことで、一つの組織や立場だけでは解決できないケースが増えています。
こうした背景から、行政経験者が企業のアドバイザーを務めたり、民間企業の人材が自治体のプロジェクトに参画したりといった、官民の間を往復する働き方が広がっています。人生後半のキャリアは、経験を社会に還元しながら新しい領域に挑戦できるという点で、越境と特に親和性が高いといえます。
官民の間にある「翻訳機」の役割が必要
行政の政策は、民間企業や地域の現場で実行されることで初めて意味を持ちます。しかし、制度と現場の間にはしばしばギャップがあり、双方が相手の事情を深く理解できていないこともあります。
人生後半のミドル・シニアは、以下の理由から、このギャップを埋める「翻訳機」の役割を果たしやすい特性があります。
- 制度・仕組みの背景を理解している
行政や大企業で長年働いてきた経験が、制度の狙いや運用を理解する力につながります。 - 現場とのコミュニケーション力が高い
関係者を巻き込み、対立を調整し、合意形成を図るスキルは、若い世代では代替しにくい強みです。 - 複雑な課題を構造的に整理できる
老舗企業の事業承継、地域課題、環境対策など、複数の要素が絡む問題に対して、俯瞰して整理できる力が求められます。
官と民をつなぐ越境人材は、単に「橋渡し」をするのではなく、関係者の意図を解釈し、共通のゴールを設計する役割を担います。この役割は人生後半のキャリアとして大きな可能性を持っています。
社会課題領域での需要が拡大している
近年、次のような領域で越境人材の需要が高まっています。
・森林や農地の管理、環境再生
・医療・福祉と地域包括ケア
・教育やキャリア支援
・地域企業の再編・事業承継
・脱炭素やカーボンニュートラルの事業推進
・自治体のDX推進や業務改善
これらの領域では、専門知識に加えて、行政経験や企業の経営感覚、プロジェクトを動かす力などが総合的に求められるため、ミドル・シニアのスキルセットと相性が良いといえます。
越境は、単なる転職や独立とは異なり、複数の領域を横断しながら自分の専門性と役割を広げていく働き方です。人生後半のキャリアとしては、柔軟性と広がりを持つ特徴があります。
越境が人生後半に適している理由
50代・60代の働き方として越境が注目される理由には、次のような点があります。
- これまでの経験をそのまま活かせる
専門知識だけでなく、調整力や信頼関係の構築力といった高度な経験が、新しい場で価値を発揮します。 - 柔軟な働き方を実現しやすい
週数日の関与、プロジェクト型の業務、アドバイザリー契約など、働き方を自分で選びやすくなります。 - 社会とのつながりを維持できる
組織の役職に依存しない形で活躍できるため、定年後の孤立を防ぎ、長期的にキャリアを続けやすくなります。 - 健康やライフスタイルとの両立がしやすい
フルタイム以外の働き方も選択でき、自分の体調や家庭の状況に合わせて調整できます。
官と民の横断は、単なるキャリアチェンジではなく、自分の持てる資産を社会に開くという働き方です。人生後半におけるキャリアの再編集として非常に魅力があります。
結論
越境人材という働き方は、人生後半のキャリアに大きな可能性をもたらします。行政経験、企業経験、プロジェクト経験など、多様なスキルを持つミドル・シニアにとって、官民を横断しながら価値を生み出す役割は、まさに活躍のフィールドといえます。
越境は、経験を活かしながら新しい領域に挑戦できる柔軟な働き方であり、社会課題の解決にも貢献します。次回は、こうした越境の具体例を踏まえながら、50代・60代のキャリアチェンジ成功モデルを整理します。
参考
官民連携、社会課題領域、ミドル・シニア人材の活躍に関する公開情報を基に再構成
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
