企業型DC加入者の戦略 iDeCoとの併用制限を踏まえた最適設計

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企業型確定拠出年金(企業型DC)は、多くの会社員にとって老後資産形成の中核を担う制度です。しかし企業型DCは、会社の制度設計によってiDeCoとの併用が制限されることがあり、制度を正しく理解していないと「節税できたはずの資金」を取り逃す可能性があります。

第6回では、企業型DCの基本構造とiDeCoの併用制限を整理したうえで、会社員が取れる実践的な戦略について解説します。

1 企業型DCの基本構造と「会社ごとの違い」

企業型DCは、企業が拠出する掛金を従業員が運用する制度です。
ただし、会社によって次のような違いがあります。

  • 会社負担の掛金額
  • マッチング拠出の有無
  • 選択制DC(給与の一部を掛金へ振り替えるタイプ)の有無
  • 投資商品のラインナップ
  • 事務手数料

この「会社ごとの制度差」がiDeCoとの併用可能範囲を大きく左右します。


2 iDeCoとの併用を制限する「3つの仕組み」

企業型DC加入者がiDeCoを利用できるかどうかは、次の制度によって決まります。


●(1)マッチング拠出

会社の掛金に対して従業員も掛金を上乗せできる仕組みです。
その場合、iDeCoの併用は原則できません。

理由は、二重に私的年金へ拠出することによる“税優遇の重複”を避けるためです。


●(2)選択制DC(選択型DC)

給与の一部をDCの掛金に振り替える方式です。
制度上はiDeCoを併用できますが、
選択制DCで給与を減らしすぎると社会保険料や将来の年金額に影響が出る点に注意が必要です。


●(3)企業型DC規約でiDeCo併用を禁止

法令では禁止されていなくても、
会社の規約で併用NGにしているケースがあります。

この場合、従業員がiDeCoを始めたい場合でも、会社側の規約変更が必要となります。


3 iDeCoと併用できるケース・できないケースの整理

企業型DC加入者がiDeCoに加入できるかどうかは、次のように分類できます。

会社制度iDeCo併用可否補足
マッチング拠出あり×(不可)原則併用NG
マッチング拠出なし・選択制DCあり○(可能)給与調整の影響に注意
マッチング拠出なし・選択制DCなし○(可能)拠出上限に注意
会社規約で禁止の場合×(不可)規約改定が必要

企業型DCが広がるにつれ、「マッチング拠出あり」の企業が増えており、結果的にiDeCoを使えない会社員も一定数存在します。


4 併用可能な場合の「最適戦略」

併用できる人は、以下の観点で最適設計できます。


(1)iDeCoの所得控除を最大活用

会社員のiDeCo拠出上限額は次のとおりです。

  • 企業型DCあり → 月額2.3万円(年27.6万円)
  • 企業型DCなし → 月額2.0〜6.8万円(職業による)

企業型DCがある人は掛金上限が小さくなりますが、
節税効果としては非常に大きいため、可能な範囲で優先順位は高くなります。


(2)企業型DCは「会社負担の恩恵を最大化」

企業型DCの会社拠出分は、従業員の実質的な収入といえます。
特にマッチング拠出や選択制DCよりも、
まずは会社負担の掛金だけで老後資産を積み上げる基盤をつくる
という発想が重要です。


(3)NISAとの役割分担

併用可能な場合、理想的な役割分担は次の形になります。

  • 企業型DC → 老後資金の土台(株式中心)
  • iDeCo → 老後資金の“追加ストック”(節税効果大)
  • NISA → 中期資金・流動性確保・調整資金

特に家計が安定する40〜50代では、
DC+iDeCoで老後資金、NISAで柔軟な資金
という構成が強力な組み合わせになります。


5 併用できない場合の戦略

マッチング拠出ありの企業型DC加入者は、iDeCoが使えないケースが多くあります。
その場合の主要な選択肢は次の2つです。


(1)NISAを「節税代替」として最大活用

iDeCoが使えないことで所得控除の恩恵は受けられませんが、
NISAの非課税メリットは非常に大きいため、
拠出余力はNISAに集中させることが有効です。


(2)企業型DC内での運用改善

投資商品が限定されている企業型DCは、
“放置して元本確保型”になりやすいという課題があります。

併用ができない場合ほど、

  • 運用商品の見直し
  • リスク許容度に応じた配分調整
  • スイッチングの定期的な確認

が重要になります。

企業型DCの投資効率が低いと、併用できない人ほど老後資産が伸びにくくなります。


6 転職時の注意点:企業型DC→iDeCoへの移換

企業型DC加入者が転職・退職する場合には、
6カ月以内に資産の移換手続きが必要です。

  • 企業型DC → iDeCo
  • 企業型DC → 新しい企業型DC
  • 移換しない場合、手数料が継続的に発生し“自動的に目減り”する

企業型DC加入者ほど、転職時の手続きの重要性が高まります。


結論

企業型DC加入者の老後資産形成は、

  • 会社制度の設計
  • マッチング拠出の有無
  • 選択制DCの有無
  • iDeCo併用の可否
    によって大きく変わります。

併用可能な人は、
企業型DC(会社負担)+iDeCo(所得控除)+NISA(自由度)
という三本柱で強固な資産形成が可能です。

併用不可の人は、

  • NISAの最大活用
  • 企業型DCの運用改善
    を軸に進めることが効果的です。

会社制度の違いは個人ではコントロールできませんが、
理解して最適な戦略を選ぶことで、同じ会社員でも資産形成の結果が大きく変わります。


参考

  • 厚生労働省「企業型確定拠出年金制度」資料
  • iDeCo公式サイト(加入区分と拠出上限)
  • 金融庁「新NISA制度」資料
  • 国税庁「公的年金等控除」「退職所得控除」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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