2026年1月から、確定拠出年金(DC)一時金の非課税枠に関わるルールが変わります。SNSでは「改悪」との声も見られますが、制度の背景や今後の改革方向を踏まえると、単純に評価できるものではありません。老後資金の形成に向けて制度をどのように使いこなすかが問われる局面です。本稿では、変更点の整理とイデコ活用を検討する際の視点について解説します。
1 DCの位置づけと制度の基本
確定拠出年金(DC)は、公的年金を補完する私的年金として整備された制度です。
- 個人型:iDeCo(イデコ)
- 企業型:企業型DC
両制度に共通するのは、加入者が毎月一定額を積み立て、運用成果に応じて60歳以降の受取額が変わる点です。
受取方法は「一時金」「年金」「併用」の三つがあり、一時金を選ぶ場合の税金計算では「退職所得控除」という大きな非課税枠が適用されます。
2 退職所得控除と「5年ルール」の意味
退職所得控除は勤続年数に応じて以下のとおり適用されます。
- 20年までは年40万円
- 21年目以降は年70万円
さらに、最終的な退職所得は控除後の金額を 1/2 にして税率をかけるため、税負担が大幅に軽くなります。
通常、退職所得控除は一生に一度しか使えません。しかしこれまで、
「DC一時金を先に受け取り、その5年後に退職金を受け取る場合は控除枠が復活する」
という特例(通称「5年ルール」)がありました。
定年が60歳のままなら活用しにくい仕組みでしたが、近年は65歳以上まで働く人が増加し、DC→退職金の順で5年以上空くケースが増えたことが制度見直しの背景にあります。
3 2026年1月から「5年」→「10年」へ延長
2026年1月以降、DC一時金を受け取る人から、控除枠が復活するまでの期間が 5年→10年 に延びます。
◆影響を受けるケース
例えば以下のような場合です。
- 60歳:DC一時金 550万円(20年加入)受取
- 65歳:退職金 2000万円(40年勤務)受取
これまでは65歳で控除枠が復活し、退職所得控除をフル活用できました。しかし新ルールでは 期間が10年に延びるため控除枠が復活しません。試算では税負担が約25万円増えるケースもあります。
制度の趣旨としては、控除の「二重取り」が広がるのを抑える目的と位置付けられています。
4 税負担を抑えるための「年金受取」という選択肢
税負担を抑えたい場合、一時金ではなく「年金受取」を選ぶ方法があります。
年金受取の特徴は次のとおりです。
- 退職所得にならないため、退職所得控除枠を温存できる
- 年金として受け取る場合は「公的年金等控除」が適用される
ただし、毎年の年金額が所得に加算されるため、所得税・住民税、さらには社会保険料に影響する点には慎重な判断が求められます。
一時金と年金のどちらが得かは「退職金の受取時期」「退職所得控除の残り枠」「60代以降の働き方」など、ライフプラン全体の条件で変わります。
5 ルール変更より重要な「生涯軸」でのイデコ活用
今回のルール変更は確かに負担増となるケースがありますが、イデコの本質的なメリットは掛金拠出時の所得控除にあります。
イデコの優位性が高まる方向の改革も並行して進んでいます。
- 拠出可能年齢が70歳未満に延長
- 掛金上限額が拡大
- 企業型DCとの併用の柔軟化が進む見込み
積み立て時の所得控除は非常に大きく、NISAと比較しても税効果が強い制度です。にもかかわらず、現状では対象者の約5%しか利用していません。
将来的な制度改善も見込まれる中で、重要なのは細かい税制テクニックを超えて、
「人生全体でどのように年金資産を形成し、受け取るか」
という視点です。
働き方の多様化が進む中、長く働く人、フリーランス、多様なキャリアチェンジを行う人など、受け取り方の最適解は人によって異なります。制度を「点」ではなく「生涯」で捉える姿勢が求められます。
結論
2026年1月からの「5年ルール→10年ルール」への変更は、一時金→退職金という順番で受け取る場合の税負担を左右します。影響の大きい人は受取方法と時期を見直す必要があります。
一方で、イデコは今後さらに拠出期間が延び、老後資産づくりの軸として活用しやすい方向に進みます。税制上の恩恵は非常に強力であり、細かな制度変更に振り回されるよりも、掛金拠出・運用・受取までの流れを通じて「生涯での最適化」を考えることが重要です。
制度理解を深め、自身の働き方や将来設計と調和させながら活用することで、イデコの価値は大きく高まります。
参考
- 日本経済新聞「DC一時金、非課税枠のルール変更」(2025年12月7日)
- 厚生労働省資料
- 国税庁「退職所得控除」関連資料
- 金融庁「確定拠出年金制度」関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

