子どもや孫への教育資金をまとめて渡す際に、最大1500万円まで贈与税が非課税となる「教育資金の一括贈与非課税(教育資金の生前贈与特例)」が、2025年度末で終了する方向になりました。制度開始から10年以上が経過し、利用状況や政策目的の変化を受けて見直しが進められています。
教育費の負担が重い一方で、資産の多くが高齢者世帯に偏る現状をどう是正するかは社会保障・税制の中でも大きなテーマです。今回の見直しは、その議論の流れの中に位置づけられるものといえます。
この記事では、制度終了の背景、現行制度のポイント、今後の資産移転や教育費支援の考え方について整理します。
1. 現行制度の仕組みと目的
教育資金の一括贈与非課税は、2013年度に導入されました。高齢者層に偏る金融資産を子や孫世代に移し、教育への投資を後押しすることが目的でした。
- 1人あたり最大1500万円まで贈与税が非課税
- 教育資金専用の口座を金融機関に開設し、入学金・授業料・習い事などに使う場合に対象
- 使用実績に応じて金融機関が税務署へ報告する仕組み
- 贈与者が死亡した場合、未使用残額は相続税の対象
制度設計として「教育目的に限定して使える」「多額の資金移転が可能」の2点が特徴で、当初は祖父母から孫への贈与で多く利用されました。
しかし、制度開始から10年以上が経過する中で、利用者層の偏りが指摘されるようになりました。
2. なぜ終了の方向なのか
今回、政府・与党は2025年度末までの期限を延長しない方向で検討しています。その背景には次の理由があります。
(1) 利用者が富裕層に限定されやすい
1500万円という非課税枠は一般家庭にとって大きく、まとまった資金を贈与できる世帯は限られます。結果的に、ごく一部の高所得層にメリットが集中し「格差固定につながる」との批判が続いていました。
(2) 教育費支援より資産移転効果が目立った
制度の目的は教育費負担の軽減でしたが、実態としては相続対策として利用される例も多く、政策目的との乖離が問題視されてきました。
(3) 利用件数の減少
制度開始当初は大きな関心を集めましたが、近年は利用が減少傾向にあります。教育費の支払い方も多様化し、既存制度では使い勝手が悪いという意見もありました。
(4) 他の贈与制度の整備が進んでいる
- 暦年贈与(基礎控除110万円)
- 相続時精算課税制度の見直し(110万円の年次控除の導入)
これらの制度で資産移転がしやすくなり、一括贈与制度を維持する政策的優先度が低下したとも考えられます。
3. 制度終了後、教育資金の贈与はどうするか
制度終了は「教育費の支援ができなくなる」わけではありません。むしろ、より柔軟に支援を考えられるようになります。
(1) 実費払いなら贈与税は非課税のまま
教育費は「扶養義務者が通常必要と認められる範囲」であれば、贈与税の課税対象とはならず、制度の有無にかかわらず親から子へ教育費を出すこと自体は自由です。
習い事・学費・通学費など、実際に必要な教育費を親が支払う場合は、そもそも贈与税はかかりません。
(2) 相続時精算課税制度の活用
制度の見直しによって、毎年110万円まで控除できる仕組みが新たに導入されました。これにより、一括でなくても計画的に資金移転しやすくなります。
相続時精算課税は生前贈与分を最終的に相続時に精算する仕組みですが、教育費以外にも幅広く使えるため、柔軟性が高い制度になりました。
(3) 暦年贈与の活用
従来からある110万円の非課税枠を活用し、毎年計画的に教育資金を贈与する方法も現実的です。
(4) 贈与の目的を広く見直す
教育費だけに限らず、将来の生活資金・住宅取得・留学・職業訓練など、資産移転の目的や用途は多様化しています。
教育資金特例が終わることは、むしろ「目的ごとに最適な贈与の方法を再検討するタイミング」と捉えることもできます。
4. 祖父母世代の資産移転はどう変わるか
高齢者層に資産が集中するという構図そのものは続いており、今後も世代間での資産移転ニーズは高まると考えられます。
ただし、
- 教育費特例は終了
- 住宅取得等資金の贈与の特例は金額縮小
- 暦年課税・相続時精算課税の整理が進行
という流れから、国としては「広く公平で、仕組みを単純化した資産移転」を指向していると解釈できます。
贈与の目的と時期を整理し、必要に応じて複数の制度を組み合わせることが今後は重要になります。
5. 制度終了前に検討したいポイント
教育資金特例が2025年度末で終了する見通しのなか、以下の点を事前に整理しておくことが有効です。
- 本当に一括で教育資金を確保する必要があるか
- 贈与の目的は教育費に限定すべきか
- 親が払うことが自然な費用か、祖父母が支援すべき費用か
- 暦年贈与または相続時精算課税の方が柔軟性が高いか
- 将来の相続税との関係をどう考えるか
- 資産の見える化・支援のルールを家族間で共有できているか
制度がなくなることを必要以上に恐れる必要はありません。むしろ、これをきっかけとして、家族の資産計画をより中長期で考える良いタイミングになります。
結論
教育資金の一括贈与非課税の特例は、10年以上続いた制度の役割を終えつつあります。利用者の偏りや政策目的とのズレが指摘され、時代に合わせた見直しが求められていました。
制度終了後も、教育費の支援そのものは自由にできます。暦年贈与・相続時精算課税の見直しなど、他の制度を柔軟に活用することで、必要な資金を子や孫に届ける方法はいくつもあります。
大切なのは、「制度ありき」で資産移転を考えるのではなく、家族の将来像や教育方針に合わせた資金計画をつくることです。制度の変化を上手に捉えて、より自由で持続可能な贈与の形を検討することが求められます。
参考
・日本経済新聞「教育資金の生前贈与特例 最大1500万円非課税終了へ」(2025年12月5日)
・国税庁資料
・金融庁資料(贈与税・相続税制度の見直し関連)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

