政府・与党は、2026年度税制改正に向けて、新しいNISA制度の利用対象を18歳未満にも広げる方向で調整しています。0歳から「つみたて投資枠」を活用できるようにし、大学進学などの教育資金を準備しやすくすることが目的です。
かつてジュニアNISAが存在しましたが、使い勝手の悪さから普及が伸び悩み、2023年に廃止されました。今回の新制度では、その反省をふまえて「使途」「引き出し条件」「限度額」などが大幅に見直される可能性があります。
この記事では、報道されている情報をもとに、新制度の狙い・従来制度との違い・家計への影響を整理し、教育資金づくりの選択肢としてどう活用できるかを解説します。
1. 新制度の概要
今回調整が進められているのは、NISAの「つみたて投資枠」を未成年にも解禁する案です。
主なポイントは次の3点です。
- 利用開始:0歳から可能
- 対象:つみたて投資枠のみ
- 引き出し:12歳以降、教育目的などに限定して一部払い出し可能とする案
現時点ではまだ詳細が固まっていませんが、教育資金目的の利用を前提に、早い段階から資産形成をスタートできる点が特徴です。
2. かつての「ジュニアNISA」と何が違うのか
ジュニアNISA(~2023年)は、年80万円×最大5年=計400万円が非課税となりました。しかし、課題が明確でした。
【ジュニアNISAの課題】
- 18歳まで引き出せないため、生活変化への柔軟性が低い
- 利用者の大半は高所得層で、資産格差が拡大するとの批判
- 投資枠が小さく、長期投資のメリットが出にくい
- 制度廃止により新規開設も終了
結果として、口座数は約123万口座にとどまり、制度として十分に普及したとは言えませんでした。
これに対し、今回の新制度では次のような改善が見込まれます。
【新制度で改善される点(報道ベース)】
- 12歳以降に目的限定で引き出し可(教育資金など)
- 投資上限の引き上げ(年間60万円案+総枠の拡大)
- 18歳以降はそのまま一般のNISAへ移行可能
- 0歳から長期運用を始められ、複利効果が大きい
特に「目的限定での払い出し解禁」は、ジュニアNISA最大の弱点を克服する重要なポイントです。
3. 教育資金づくりにどう役立つのか
教育費は家庭の大きな負担です。文部科学省などのデータでは、大学進学費用は次のような水準になります。
- 国公立大学:入学〜卒業まで概ね500万〜600万円
- 私立文系:700万円前後
- 私立理系:800万〜1,000万円
一方で、早期からの積立投資は時間の力(複利)が働き、少額でも大きく育つ可能性があります。
例として、年間60万円を0歳〜18歳まで積み立てた場合をざっくり計算すると、
- 積立総額:60万円×18年=1,080万円
- 年率3〜5%で運用した場合:1,400万〜1,700万円程度に増える可能性
もちろん相場の変動があり元本割れのリスクはありますが、「教育資金づくりを投資で補う」選択肢がより現実的になります。
4. 親の資産格差拡大の懸念はどうなるか
未成年口座の資金は実質的に親や祖父母が拠出することが多いため、「資産格差が拡大する」との懸念は根強くあります。特に、投資余力のある家庭ほど恩恵を受けやすい構造は否めません。
今回、報道によれば、
- 親が自由に引き出せないように制限をつける
- 使途を教育資金に限定する
といった設計が検討されています。
ただし、抜本的に格差を抑えるためには、制度の使いやすさだけでなく、
- 家計教育の普及
- 金融リテラシー教育の充実
- 若年世代への投資機会の平等化
などの社会的な取り組みも不可欠です。
5. 若年層の資産形成にプラス
2024年に新NISAがスタートしてから、利用者は急増しました。2025年6月末時点で約2700万口座。政府目標(2027年末3400万口座)達成には、若者層の利用拡大が鍵になります。
今回の制度改正が実現すれば、
- 0〜17歳の時点で投資経験を持った若者が増える
- 18歳以降もそのまま一般NISA口座で運用を継続
- 投資への心理的ハードルが下がる
という効果が期待されています。
長期運用に向く制度だからこそ、若い世代での利用は制度本来の意義に合致します。
6. 高齢者向けのNISA改革も並行で進む
実は今回の報道では、同時に「高齢者向け商品」の導入検討にも触れられています。
- NISA口座から自動的に毎月定額を取り崩す仕組み
- 高齢者向けの低リスク商品
- 老後資金の安定的な取り崩しモデル
などが議論されています。
つまり、今回の改正は「子ども向け」「高齢者向け」が同時に進む、全世代型NISAへの転換とも言える流れです。
■結論
未成年へのNISA解禁は、単に「投資可能年齢が下がる」以上の意味を持つ制度改革です。
0歳からスタートする長期投資の可能性は大きく、教育資金づくりの選択肢として魅力的です。一方で、親の資産格差や使途管理の問題もあるため、制度設計が重要なポイントになります。
最終的な詳細は税制改正大綱で明らかになりますが、現段階でも次の点は明確です。
- ジュニアNISAの弱点を改善する方向で設計
- 教育資金づくりに使いやすい制度となる可能性
- 若年層の投資習慣づくりに寄与
- 家族のライフプランの選択肢を広げる改革
今後の正式発表を踏まえつつ、家計としてどう活用するかを考えていくことが大切です。
■参考
- 日本経済新聞「NISA、18歳未満可能に 進学費用などの使途想定」(2025年12月4日 朝刊)
- 新NISA制度関連の政府資料(2024〜2025年)
- 文部科学省「子どもの学習費調査」ほか教育費統計
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

