確定拠出年金(DC)やiDeCoで「見せかけ分散」が起きる背景には、行動経済学が示す“人間の意思決定の癖”が大きく関わっています。金融リテラシーの高低にかかわらず、多くの人が同じような誤りに陥るのは、私たちが本来持つ心理的傾向によるものです。
本稿では、分散投資を阻む“心理のワナ”を整理し、その対策として制度や個人がどう向き合うべきかを解説します。
1. 人が分散できない理由は「知識不足」ではない
投資初心者が分散できないと考えると「知識がないから」と思いがちですが、実は経験者でも“偏り”は起こります。背景にあるのは、以下の心理バイアスです。
(1)親近感バイアス
- 日本株が馴染み深い
- よく知っている企業を選びたくなる
結果として、国内株や特定のアクティブファンドに過集中します。
(2)過去情報への過度な依存
直近1〜2年の高パフォーマンスを重視し、本来分散すべき局面でも“強い資産一点買い”になりやすくなります。
(3)選択肢過多による判断回避(Choice Overload)
商品が多すぎると、
- とりあえず知っているものを選ぶ
- 複数選べるので全部買う
という誤りが増えます。
(4)損失回避バイアス
損をしたくない気持ちが強すぎると、必要なリスクも取れず、元本確保型に偏る傾向があります。
2. 行動バイアスを踏まえた制度側の工夫
欧米では、行動バイアスが運用成果に悪影響を与えることを前提に、以下の制度設計が一般化しています。
(1)デフォルトで“適切な分散”
ターゲットデート型や全世界分散を標準にし、加入者が選ばなくても分散される仕組みです。
(2)選択肢の明確な整理
資産クラスの重複を避け、理解しやすいラインナップに絞り込むことで誤選択を減らします。
(3)“気づきの表示”
- 「この2つの商品は似た値動きです」
- 「配分が片寄っています」
といった通知を表示する事例もあります。
3. 個人ができる対策
行動バイアスは完全には消えません。しかし、以下を意識すると改善します。
- 資産クラスの重複を確認する
(ファンド数ではなく、中身を見る) - 過去1年の成績だけで選ばない
- ターゲットデート型や全世界型など、シンプルな商品構成にする
- 「買わない」選択肢も持つ
迷ったときに一度保留する癖をつける。
4. 行動経済学が示す結論
分散投資とは“合理的な行動”ですが、人間は合理的に行動するようにはできていません。だからこそ、
- 個人の努力+制度側の仕組み
の二本柱で改善する必要があります。
結論
「分散できない理由」は、金融知識の不足よりも、行動経済学が示す“人の意思決定の癖”に原因があります。合理的に選び続けることは難しいため、ターゲットデート型など自動調整型の活用や、制度側でのガバナンス強化が不可欠です。
分散は技術論ではなく、心理との戦いでもあります。バイアスを理解し、長期運用に耐える“仕組み”を持つことこそ、老後資産形成の成功につながります。
参考
- 行動経済学文献(Kahneman, Thalerほか)
- OECD年金制度レビュー
- DC制度研究資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
