第5回 分散投資を“行動経済学”で考える:なぜ人は偏ってしまうのか

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確定拠出年金(DC)やiDeCoで「見せかけ分散」が起きる背景には、行動経済学が示す“人間の意思決定の癖”が大きく関わっています。金融リテラシーの高低にかかわらず、多くの人が同じような誤りに陥るのは、私たちが本来持つ心理的傾向によるものです。

本稿では、分散投資を阻む“心理のワナ”を整理し、その対策として制度や個人がどう向き合うべきかを解説します。

1. 人が分散できない理由は「知識不足」ではない

投資初心者が分散できないと考えると「知識がないから」と思いがちですが、実は経験者でも“偏り”は起こります。背景にあるのは、以下の心理バイアスです。

(1)親近感バイアス

  • 日本株が馴染み深い
  • よく知っている企業を選びたくなる

結果として、国内株や特定のアクティブファンドに過集中します。

(2)過去情報への過度な依存

直近1〜2年の高パフォーマンスを重視し、本来分散すべき局面でも“強い資産一点買い”になりやすくなります。

(3)選択肢過多による判断回避(Choice Overload)

商品が多すぎると、

  • とりあえず知っているものを選ぶ
  • 複数選べるので全部買う
    という誤りが増えます。

(4)損失回避バイアス

損をしたくない気持ちが強すぎると、必要なリスクも取れず、元本確保型に偏る傾向があります。

2. 行動バイアスを踏まえた制度側の工夫

欧米では、行動バイアスが運用成果に悪影響を与えることを前提に、以下の制度設計が一般化しています。

(1)デフォルトで“適切な分散”

ターゲットデート型や全世界分散を標準にし、加入者が選ばなくても分散される仕組みです。

(2)選択肢の明確な整理

資産クラスの重複を避け、理解しやすいラインナップに絞り込むことで誤選択を減らします。

(3)“気づきの表示”

  • 「この2つの商品は似た値動きです」
  • 「配分が片寄っています」
    といった通知を表示する事例もあります。

3. 個人ができる対策

行動バイアスは完全には消えません。しかし、以下を意識すると改善します。

  1. 資産クラスの重複を確認する
    (ファンド数ではなく、中身を見る)
  2. 過去1年の成績だけで選ばない
  3. ターゲットデート型や全世界型など、シンプルな商品構成にする
  4. 「買わない」選択肢も持つ
    迷ったときに一度保留する癖をつける。

4. 行動経済学が示す結論

分散投資とは“合理的な行動”ですが、人間は合理的に行動するようにはできていません。だからこそ、

  • 個人の努力+制度側の仕組み
    の二本柱で改善する必要があります。

結論

「分散できない理由」は、金融知識の不足よりも、行動経済学が示す“人の意思決定の癖”に原因があります。合理的に選び続けることは難しいため、ターゲットデート型など自動調整型の活用や、制度側でのガバナンス強化が不可欠です。

分散は技術論ではなく、心理との戦いでもあります。バイアスを理解し、長期運用に耐える“仕組み”を持つことこそ、老後資産形成の成功につながります。

参考

  • 行動経済学文献(Kahneman, Thalerほか)
  • OECD年金制度レビュー
  • DC制度研究資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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