企業型DCは、制度設計次第で加入者の老後資産の成果が大きく変わります。従業員のリテラシー格差を前提に、どのように選択肢を設計し、どの程度の自由度を与えるかは、各企業が抱える重要な課題です。
近年は「見せかけ分散」や「過度な安全志向」への対処として、制度側で質の高い分散を担保しようとする動きも広がっています。本稿では、企業型DCの制度設計における要点を整理します。
1. 企業型DCの課題の本質
多くの企業が悩む問題は次の3点です。
- 選択肢が多すぎて加入者が迷う
- 元本確保型がデフォルトや比率の大半を占める
- 加入者教育が“一般論”になり、個別に響かない
この結果、
- リスクを取りすぎる加入者
- リスクを全く取らない加入者
- 見せかけ分散になる加入者
が同時に発生します。
2. 制度設計で分散の質を担保する
(1)商品数を絞る
「選択肢が多いほど良い」という誤解は根強いですが、行動経済学的には逆効果で、加入者は判断を避けます。
欧米の事例でも、商品数を10以下に絞った制度のほうが、運用結果が安定している傾向があります。
(2)デフォルトの適切な設定
企業型DCで最も重要なのは、加入者の7割以上が選ぶ“指定運用方法(デフォルト)”です。
おすすめは以下のいずれかです。
- ターゲットデート型
- グローバル分散型(パッシブ)
元本確保型をデフォルトにすると、長期の運用成果は大きく低下します。
(3)リスクの分布を制度で制御する
加入者が自由に組み合わせると、極端なリスク配分になりやすいため、
- 高リスク資産の上限
- 商品ごとの重複制限
を制度側で設定する方法があります。
3. 情報提供と助言の線引き
企業が最も慎重になるポイントが「投資助言」に該当しないかどうかです。しかし、加入者の気づきを促す以下のような情報提供は助言に該当しない可能性が高く、効果が大きいとされています。
例:
- 「国内株式が多くなる組み合わせ例」
- 「似た動きをする商品同士の保有は要注意」
- 「過去の相関関係を視覚化」
具体的な商品名を推奨しない形での情報提供は、加入者の理解を深める実務的な方法です。
4. ベストプラクティスの方向性
企業型DCの世界では、次の方向性が国際的な標準となりつつあります。
- 加入者任せにしない
- デフォルトで分散の質を確保する
- 選択肢を整理し、理解しやすくする
- 加入者教育は「一般論」から「気づき」重視へ
日本の制度も徐々にこの方向へ進みつつあり、企業の役割はますます大きくなっています。
結論
企業型DCは、制度設計次第で長期の資産形成の結果が大きく変わる仕組みです。分散の質を高めるためには、商品数を絞り、デフォルトを適切に設定し、“制度側でのガバナンス”を強化することが不可欠です。加入者教育だけに頼るのではなく、制度そのものが合理的な選択へ導く設計が求められる時代になっています。
参考
- 厚生労働省企業型DCガイドライン
- 日本経済新聞記事
- 海外DC制度研究資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
