【AI×確定申告/AI×スモールビジネス支援シリーズ 第3回】確定申告書作成はどこまでAIが担うのか―「入力」から「判断」へ。自動化の境界線を考える―

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AIが経理や仕分け作業を大幅に効率化する中で、多くの人が気になるのは「確定申告書そのものはAIが作ってくれるのか」という点ではないでしょうか。

確定申告書は、単純な数字の入力だけではなく、

  • 控除の判定
  • 按分の計算
  • 税額の計算
  • 特例の適用可否
    など、判断と計算が複雑に絡み合う部分です。

近年、会計ソフト各社はAIアシスタント機能を強化しており、申告書の作成に必要な情報を自動で反映する仕組みも増えています。しかし、「どこまでAIが担えるのか」「どこからが人の判断なのか」を明確に整理することが、利用者にとって大切なポイントになります。

本記事では、確定申告書作成におけるAIの役割と限界、そして今後訪れる可能性のある“半自動化時代”について解説します。

1.確定申告書作成は“半自動化”がすでに進んでいる

現在、多くの会計ソフトは申告書作成機能を搭載しており、次のような処理はすでに自動化されています。

● 仕分けデータの集計

AIエージェントやOCRによって分類された経費情報は、そのまま申告書の「経費欄」に反映されます。

● 売上データの反映

銀行明細やクレカ明細との連携で売上が自動で取り込まれれば、申告書側にも自動で数字が流れます。

● 控除計算の自動化

  • 基礎控除
  • 青色申告特別控除
  • 社会保険料控除
  • 医療費控除(データ連携対応)
    などは、条件に合致すれば自動で計算されます。

すでに「8割程度は自動で作れる」状態に近づいています。


2.AIが強みを発揮する領域

(1)“入力ミス”を減らす

手作業で数字を入力する場合、

  • 桁間違い
  • 打ち間違い
  • 転記漏れ
    が起きやすく、これが税額の誤りにつながることもあります。

AIはデータから自動で値を取り込むため、入力ミスが起こりにくくなります。

(2)必要書類の読み取り

最近では、

  • 源泉徴収票
  • 保険料控除証明書
  • 医療費通知
    などをAIで読み取り、必要な欄に自動反映する仕組みが広がっています。

利用者は写真を撮るだけで済むため、「どこに入力すべきかわからない」といった問題が解消されます。

(3)必要な控除を“気づかせる”

AIは入力されたデータから、

  • 医療費控除の適用可能性
  • 小規模企業共済等掛金控除の入力漏れ
  • 寄附金控除の対象金額
    などをレコメンドする機能もあります。

申告漏れや控除の取り忘れを防ぎ、税負担を適切にする効果があります。


3.AIでも難しい“判断が必要な領域”

AIの弱点は、「状況に応じた判断」が絡む領域です。

(1)家事按分の判断

按分比率は、

  • 自宅兼事務所の広さ
  • 使用用途
  • 業務と私用の割合
    によって変更されます。

AIはこれらを自動判断できず、利用者の判断が必要になります。

(2)修繕費か資本的支出か

例えば、建物の修理・改善の費用は、

  • 修繕費(全額経費)
  • 資本的支出(資産計上)
    のどちらかに分類されます。

これは実務上でも判断が難しく、AIが自動で分類するのは現状では困難です。

(3)交際費か会議費か

「飲食を伴う会議」が、

  • 会議費か
  • 接待交際費か
    で扱いが変わるケースは多いですが、AIは文脈を完全に理解できません。

(4)税制改正への即時対応

税制は毎年変わるため、AIがすべての改正を正しく反映するには一定の時間が必要です。


4.利用者側が必要な“補助的な判断”

AIが仕分け〜入力作業を担ってくれる一方で、次のような判断は利用者側で行う必要があります。

● 特例適用の可否

  • 青色申告特別控除55万円/65万円
  • 住宅ローン控除
  • 期限後申告時の取扱い

● 所得区分の整理

  • 雑所得か事業所得か
  • 外注費と給与の違い
    など、税務判断が必要な事項には人の判断が求められます。

● 生活費と事業経費の区分

AIは用途を理解していないため、やみくもに経費に入れてしまうと税務リスクが高まります。

「AIに任せつつ、細かい判断は確認する」
このスタンスが最も安全で効率的です。


5.AIと確定申告書作成の未来

今後、AIは次のような方向に進化すると考えられます。

(1)入力項目のさらなる自動化

控除証明書類との連携が進めば、ほとんどのデータは自動で取り込まれるようになる可能性があります。

(2)レコメンドの高度化

「あなたの場合、こうした控除が適用できる可能性があります」といった提案がより正確に行われるようになります。

(3)ミス検出AIの進化

誤分類や異常値をリアルタイムで警告する仕組みが一般化すれば、税務調査リスクはさらに下がります。

(4)完全自動化のカギは“法整備”

AIが申告書を全自動で作るには、

  • 電子帳簿保存法の標準化
  • 税制のデジタル前提化
    など、法令側の整備も必要です。

すぐに訪れる未来ではありませんが、長期的には“確認するだけで申告が終わる”世界に近づいていくと考えられます。


結論

確定申告書の作成は、すでに大部分が自動化されつつあります。AIが仕分けや入力を担い、控除の自動計算やレコメンドも行うことで、利用者の負担は大きく軽減されています。

一方で、家事按分や資本的支出の判断など、個別の状況が絡む部分は依然として人の判断が必要です。AIに任せきるのではなく、適切なチェックと判断を行うことが、安全で正確な確定申告につながります。

AIが役割を広げるほど、確定申告はより身近で簡単なものになります。今後の進化を前向きに活用しながら、負担の少ない確定申告スタイルを確立していくことが大切です。


参考

・国税庁「確定申告書作成に関する公開資料」
・日本経済新聞「AIエージェントで確定申告支援」(2025年12月3日)
・経産省・金融庁 AI関連資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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