世界が大きく揺れる中、日本企業にとって「危機」をどう捉えるかが問われています。政治・経済の不確実性、地政学リスク、インフレ、人口減少、そしてAIの急速な進化。これらは従来の延長線上では対応できないほどの変化をもたらしています。
グローバルの大手投資家や経営者たちは、日本に対してこれまでにない関心を示しています。その背景にあるのは、日本企業が持つ潜在力への期待と、同時に改革の余地が大きいという判断です。
この記事では、こうした世界の視点を踏まえつつ、日本企業がこれから取り組むべき経営テーマを、「AI」「資本の最適化」「生産性」「リスクへの姿勢」を軸に整理していきます。経営者にとって、いままさに“覚悟”が求められている理由を考えてみたいと思います。
1 日本企業は「変革待ち」の状態にある
長期にわたって続いたデフレは、企業にも個人にも「リスクを取らない方が得になる」という心理を根付かせました。しかし、昨今のインフレ転換や世界的な金利上昇は、これまでとはまったく異なる前提をもたらしています。
インフレ下では、現金の価値はゆっくりと減少します。持つだけで得をした時代から、「どう活用するか」が問われる時代へと変わりました。
そのため海外投資家の多くは「日本企業こそ今がチャンス」と見ています。非中核事業の整理や成長領域への投資など、これまで実行されてこなかった改革がようやく動き始めているからです。
ただし、この変化はまだ始まったばかりです。企業が持つ豊富な現預金、技術力、労働力の質を生かすための“仕組み”は十分ではありません。改革のスピードを上げ、資本配分の最適化を本気で進める必要があります。
2 非中核事業の見直しは「企業の体質改善」である
グローバル企業では当たり前になっている事業ポートフォリオの定期的な見直しが、日本企業では十分に行われてきませんでした。
特に大企業は、多様な事業を抱える一方で、それぞれに十分な経営資源を注げていないケースも散見されます。
非中核事業の売却は、単なる「撤退」ではありません。
むしろ、本業に集中し、成長分野へ投資するための戦略的な選択です。新しいオーナーのもとで事業が再生し、雇用が守られ、海外展開が進む例も増えています。
日本企業に必要なのは、
「この事業は、自社が持ち続けるべきか」
という問いを、先送りせず正面から向き合う姿勢です。
3 経営の中心に浮上する“AIリスク”
いま世界の経営課題の中心にあるのは、「AIがもたらす破壊」です。
AIは科学技術ではなく、すでに経営そのものに影響する“経営リスク”として扱われています。
多くのグローバル投資家は、企業を評価する際に「AIを使いこなせるか」を最優先で確認しています。
AI化による生産性向上の可能性は、歴史上の鉄道・電力・インターネット以上とも言われます。
例えば、世界の労働コストを60兆ドルと仮定すると、AIで15%効率化するだけで9兆ドルが生まれる試算もあります。
その規模を踏まえると、データセンターやAIインフラへの投資が拡大するのは当然の流れだと言えます。
ここで重要なのは、AIは“余剰の価値”を生むのではなく、“既存業務を置き換える力”を持つ点です。
経営者は次の問いと向き合う必要があります。
- 自社の事業はAIによって破壊されるのか
- AIを活用して市場を獲りに行く側になれるのか
- 社員の業務はどれだけAIで代替可能なのか
- AIを使う前提で、業務設計をゼロから組み直す覚悟はあるか
AIは“導入すべき技術”ではなく、“経営構造そのものを変える要因”になっているのです。
4 人口減少という最大の経営課題を“AIで乗り越える”
日本企業が抱える最大の構造問題は、労働力不足です。
採用が難しくなり、固定費が増え、人件費の上昇は不可避です。
ここでもAIがカギを握ります。
- 生産ラインの自動化
- コールセンター・バックオフィスのAI化
- 物流・店舗運営の省人化
- 法務・経理のオートメーション
作業そのものをAIに置き換えることで、企業は本来の付加価値業務へ人材を再配置できます。
つまりAIは、人口減少社会の“唯一の生産性ドライバー”として位置づけられるのです。
5 日本企業は「行動できるか」で勝敗が決まる
世界中を見渡しても、日本ほど技術・安全・ホスピタリティを兼ね備えた国は多くありません。
それにもかかわらず、世界の競争に出遅れたのは「行動の遅さ」が原因だと言われています。
今求められるのは、完璧な計画ではありません。
不確実性が高い時代ほど、「まず動く」「やりながら修正する」姿勢が重要です。
経営には失敗がつきものですが、何もしないことのほうがはるかに大きなリスクになります。
特にAIの進展は“自社の意思決定を待ってくれない”スピードで広がっています。
危機はいつも突然訪れます。
しかし、危機の後には必ずチャンスがあります。
そのチャンスを掴めるのは、「準備していた企業」「動いていた企業」だけです。
結論
日本企業にとって、これからの数年は“勝負の時間”です。
デフレの終焉、インフレ、人口減少、AI、地政学リスク――。
これらは脅威であると同時に、未来を作るための転換点でもあります。
重要なのは、経営者がどれだけ“覚悟”を持てるか。
そして、
- 事業ポートフォリオの見直し
- AIを前提とした業務設計
- 成長分野への資本投下
- 生産性向上への本気の取り組み
を、どれだけ迅速に実行できるかにかかっています。
今の日本には、多くの魅力と大きな余白があります。
危機を恐れず、変化を受け入れ、革新的な発想で未来を切り拓く。
まさに今、その力が経営者に求められているのだと思います。
参考
・日本経済新聞「企業、危機を好機に 経営者『AIか死か』の覚悟を」(2025年12月3日 朝刊)
※記事の内容を参考にしつつ、構成・文章は独自に再構成しています。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

