利子割の偏在是正が検討される中で、もう一つ重要な論点があります。それが 地方交付税との関係 です。
地方税の偏在をある程度ならす仕組みとして、すでに「地方交付税」が存在します。しかし、利子割の偏在を交付税で完全に調整できるわけではありません。今回の利子割改革は地方財政全体にどのような影響を及ぼすのか。地方税体系と財源調整制度を総合的に整理する必要があります。
本稿では、地方交付税の仕組みを確認したうえで、利子割の偏在是正が交付税とどのように連動し、どのような制度上の課題が生じるのかを解説します。
1 地方交付税とは何か:財源保障と財源調整の仕組み
地方交付税は、地方公共団体の財源不足を補うための国からの交付金で、正確には「地方交付税交付金」と呼ばれます。特徴は次の二つです。
(1)財源保障
自治体が必要とする行政サービス(教育、福祉、インフラ等)を行うための 基準財政需要額 を算定し、それを満たすために必要な財源を保障する役割。
(2)財源調整
地域間の税収格差を調整するため、基準財政収入額の差を補填する役割。
税源が豊かな都市部と、人口減少で税収が不足しがちな地方部の格差をならします。
つまり地方交付税は、日本の地方財政の“セーフティネット”です。
2 地方交付税では利子割の偏在を完全に補いきれない理由
利子割の偏在を「交付税で補えば良いのでは?」という議論がありますが、実際には次の理由で完全に調整できません。
(1)交付税算定に利子割は完全には反映されない
交付税の基準財政収入額には、各自治体の税収が反映されますが、
利子割の変動は比較的軽微に扱われるため、偏在の影響が十分に補正されない
という課題があります。
特に東京都のような財源が豊富な自治体は、交付税の対象外または極めて少額のため、実質的に偏在は放置されやすくなります。
(2)交付税は“結果として不足が出たときの補填方式”
利子割のような構造的な偏在には根本対応ができません。
交付税は「年間の税収の結果」に対して調整を行うものであり、
利子割のように制度的に偏りが生じる税目には適していないのです。
(3)交付税の原資には限界がある
交付税総額には国家予算上の制約があり、
地方のすべての財源不足を完全に充足できるわけではありません。
利子割の偏在が拡大すれば、交付税の負担も増えることになります。
3 利子割の偏在是正と交付税の“二重調整”問題
今回、利子割を居住地主義に近づける仕組みが導入されると、
地方交付税と 調整機能が一部重複 する可能性があります。
そのときに浮上する論点が「二重調整問題」です。
● 二重調整とは
- 利子割の新制度で、偏在をならす
- 交付税でも財源不足を補う
この2つが同時に働き、
特定の自治体に過剰な“補填”が行われてしまう
可能性が出てきます。
例として、人口減少・高齢化で財源が不足する自治体は、本来は交付税で補われるべき部分が、利子割の調整制度でも補われる可能性があります。
制度が重複すると、地方間の公平性に新たなひずみが生じかねません。
4 偏在是正を進めるうえで必要となる“制度仕分け”
利子割制度と交付税が二重調整にならないようにするためには、以下のような「制度の整理」が不可欠です。
(1)利子割で調整すべき偏在と、交付税で調整すべき偏在を分ける
利子割で扱うのは、あくまで 利子所得の帰属の偏在。
基礎的な行政サービスの不足は交付税で扱う。
こうした役割分担が必要です。
(2)交付税算定の際に利子割の“補正影響”を反映する
利子割で税収増となった自治体については、
交付税算定時にその分を考慮して「基準財政収入額」に反映するなど、精緻化が求められます。
(3)自治体同士の過度な依存関係を避ける
東京が利子割を拠出することになっても、それが地方の財政運営の“恒常財源”とみなされると、自治体の自立性が損なわれます。
そのため、調整額は透明性と客観性の高い方法で算定される必要があります。
5 利子割の偏在是正は交付税改革にもつながり得る
利子割の偏在是正は、交付税制度の見直しにも波及する可能性があります。
● 税源配分の精緻化
所得データを活用した“適正税源算定”が可能になれば、他の税目にも応用でき、交付税制度との整合性が向上します。
● AI・データ分析による自治体財政分析の高度化
行政DXが進めば、自治体の財政力指標の算定精度が高まり、交付税の配分の透明性向上につながります。
● “税源偏在の構造的解消”という新たな方向性
利子割だけでなく、地方税全体の偏在をデータベース化し、制度全体をスリムにする改革にもつながり得ます。
6 利子割改革が地方自治にもたらすメリット
利子割の偏在是正は、地方交付税との関係調整という課題を抱えつつも、次のようなメリットがあります。
● 財源が本来の居住地に近づく
行政サービスの受益者が負担し、税収もその自治体に帰属するという“応益・応能の原則”が回復します。
● 地方財政の安定化
人口減少・高齢化で厳しい地方自治体の財源補完策として、利子割の偏在是正は効果が大きいです。
● デジタル社会に対応した税制の実現
オンライン金融の普及に合った課税方式となり、将来的な金融所得の課税方式の議論にもつながります。
結論
利子割の偏在是正は、地方交付税と密接に関連しつつ、地方財源の適正化を目指す重要な取り組みです。交付税は「財源保障・財源調整」という大きな砦ですが、利子割の偏在はその仕組みだけでは完全に補えません。
今回の改革は、税源配分の役割分担を明確化し、地方税体系の整合性を高めるためのプロセスです。
次回は、より広い視点から「税源移譲の歴史」を振り返り、今回の利子割改革が日本の地方税制の流れの中でどのような位置づけにあるのかを解説します。
参考
・地方財政白書(最新版)
・総務省「地方交付税制度の概要」
・日本経済新聞(該当記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
