第2回 2026年度税制改正:利子割の偏在是正の方向性 新制度の狙いと設計案

税理士
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利子割が東京都に過度に集中している問題に対応するため、政府・与党は2026年度税制改正において「都道府県間の税収調整制度」の導入を本格的に検討しています。利子割は本来、利子所得を得た人の居住地に帰属すべき税金ですが、長年の慣行とネット銀行の急拡大により、実態と制度の乖離が大きくなっています。

今回の改革は、単なる“東京から地方へ税収を振り分ける再分配”ではありません。金融のデジタル化、オンライン経済の浸透、そして金利上昇という環境の変化に対応し、地方税体系を本来の姿に戻すための構造改革です。本稿では、検討されている制度案の概要、影響、課題を総合的に整理します。

1 今回の改革が重視する「3つの原則」

政府・与党が掲げる偏在是正の基本方針は、以下の3点に集約されます。

(1)居住地課税の回復

住民税は「住民が住む自治体に税収を帰属させる」という原則があります。利子割だけが例外的に本店所在地で課税される現行方式は、この原則から外れています。改革はこの“ゆがみ”を是正する第一歩です。

(2)データに基づく適正配分

所得や人口のデータを活用して「各都道府県が本来得られるべき税収」を算定し、偏在をならす方針が示されています。行政デジタル化の進展により、こうしたデータ算定が可能になりました。

(3)金融DX・行政DXへの対応

ネット銀行、キャッシュレス、オンライン金融の普及により、従来の“本店主義”は限界に達しています。金融のデジタル化に合わせて税制も見直すことが避けられません。

2 新制度の仕組み(案)の全体像

検討されている新たな偏在是正措置は、次のような流れで処理される仕組みが想定されています。

ステップ1:所得データから「適正利子割」額を計算

  • 個人の利子所得データ
  • 年齢階層・預金残高などの推計値
  • 過去の利子割の実績データ

これらをもとに、各自治体が「本来得られるべき税収(適正額)」を計算します。

ステップ2:実際の税収との比較

  • 東京都 → 実際の税収が適正額を上回っている
  • 地方県 → 実際の税収が適正額を下回っている場合が多い

この差額が調整の対象となります。

ステップ3:過不足の自治体間調整

  • 取りすぎ(過大収入)→ 拠出
  • 不足(過少収入)→ 交付

この仕組みにより、利子割だけが突出して東京に偏る現象を是正する狙いです。

3 東京都と地方自治体への影響

実際に制度が導入された場合、どのような影響が生じるでしょうか。

● 東京都(拠出側)

利子割の税収は東京都で 40%以上 を占めていますが、適正シェアは20%前後と見込まれており、一定額の拠出が求められる可能性が高いです。
ただし、利子割全体は400億円規模と小さく、東京都の巨額財政規模を踏まえると“負担しても財政運営に大きな影響はない”というのが実務的評価です。

● 地方自治体(受給側)

特に人口規模が大きな県や、預金残高が高い地域は一定の税収増が期待できます。人口が減少し、財源が細る地方圏にとっては“基礎的財源の補完”としての意味も持ちます。

● 金利次第で影響の大小が変わる

利子割税収は金利動向と連動するため、今後金利が上昇すれば制度の重要性が増します。逆に金利が低下すれば偏在自体が縮小する可能性もあります。

4 実務上の論点と制度設計の課題

制度として必ず検討されるべきポイントは次のとおりです。

(1)所得データの精度

マイナンバー連携などで所得補足精度は向上していますが、利子所得は証券・銀行・海外口座など多様なため、推計モデルの正確性は重要です。

(2)交付・拠出の透明性

「どの県がどれだけ拠出し、どれだけ受け取るのか」
これをどこまで公表するかは政治的な争点になり得ます。

(3)制度が地方交付税に与える影響

利子割を調整した場合、地方交付税(財源保障、財源調整)との二重調整の問題が生じます。

  • 交付税で補うべき格差
  • 利子割の調整で補うべき格差
    この境界を明確にしないと、制度の複雑化が避けられません。

(4)金融機関の事務負担

地方税調整が複雑化することで、金融機関の事務手続きが増える懸念があります。
行政DXを含め、事務負担の最小化に向けた設計が求められます。

5 今回の改革の意義:単なる再分配ではない

利子割の偏在是正は、政治的には「東京→地方の税収移転」に見える部分もあります。しかし本質はそこではありません。

  • ネット銀行が全国均質に利用される時代
  • 利子所得の地域分布が大きく変化
  • 金融DX・行政DXでデータ補足が可能
  • “本店所在地課税”が現実と合わなくなった

これらの変化により、地方税体系の再構築が必要になったのです。
つまり、今回の改革は「税源を適正に居住地へ戻す作業」であり、デジタル社会に合わせた税制アップデートです。

結論

2026年度税制改正で検討されている利子割の偏在是正策は、地方税体系の原則である「居住地課税」への回帰を目指す重要な改革です。東京都への偏在を是正することは、単に地方への税収移転を意味するのではなく、ネット銀行普及など現代の金融環境に即した制度に再設計するプロセスです。

利子割税収は規模こそ小さいものの、金利上昇やオンライン金融の浸透により重要性が高まりつつあります。制度がどのように設計されるかは、地方財政の公平性、行政DXの方向性、金融制度の変化と密接に結び付きます。

次回は、地方税の基本原則である「居住地主義」に焦点を当て、なぜ利子割だけが本店所在地課税となっているのか、制度の背景と歴史的経緯を詳しく解説します。

参考

・日本経済新聞「預金利子にかかる地方税、東京集中是正へ調整」(2025年12月3日 朝刊)
・総務省「地方税制度の概要」
・地方財政白書(最新版)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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