第3回 地方で暮らす老後― 自然・生活コスト・コミュニティの豊かさ ―

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定年後の選択肢として「地方で暮らす」ことを検討する人は年々増えています。都会と比べて生活コストが低く、自然が身近にあり、ゆったりとした時間を過ごせることが魅力です。また、地域コミュニティの支え合いを求めて地方移住を選ぶケースも少なくありません。

一方で、医療や交通面で不安を抱く人も多く、老後の地方生活は“向き不向き”がはっきり分かれるのも事実です。本稿では、地方で暮らす老後がどのような価値を生み、どんな点に注意すべきかを多角的に整理します。

1. 地方老後の魅力は「生活のゆとりと自然の豊かさ」

都会では時間に追われる生活になりがちですが、地方では日々のペースがゆっくりと流れ、生活そのものにゆとりが生まれます。

●地方で得られる豊かさ

  • 広い住まい
  • 静かな環境
  • 自然の美しさ(海・山・川・田園など)
  • 騒音・混雑のストレスが少ない
  • 季節の変化を身近に感じられる
  • 散歩・ガーデニング・家庭菜園などの充実

都市では買えない広さの住まいも、地方では手が届きやすく、生活空間の快適さは大きく向上します。

●“自然”は健康にも好影響

自然環境は、

  • ストレス軽減
  • 睡眠の質向上
  • 運動量の増加
    などの面でも良い結果をもたらすとされ、地方環境は健康的な生活を支える土台にもなります。

2. 生活コストが下がり、資金不安を抑えられる

地方暮らしの大きな強みは、とにかく“生活コストが下がる”点です。

●特に差が大きい費用

  • 住宅費(家賃・固定資産税・管理費)
  • 駐車場代
  • 食費(地元食材の安さ)
  • 日用品の価格
  • 自然が多いため、レジャー費も少なくて済む

都市部のワンルーム並みの家賃で、地方では戸建や広めのマンションに住める地域も珍しくありません。

●生活コストが低いことの心理的メリット

老後の課題は“年金だけで生活できるか”という不安ですが、地方では可処分所得にゆとりができやすく、精神的な安定にもつながります。

●車の維持費は注意が必要

ただし、地方では車が生活必需品であることが多く、

  • 車検
  • 保険
  • ガソリン
  • メンテナンス
    などのコストがかかります。都市部では不要なコストであるため、都会と地方の比較には“車の維持費”を必ず入れる必要があります。

3. 地域コミュニティの濃さが安心につながる

地方では近隣住民との距離が近く、コミュニティのつながりが強いことが特徴です。

●コミュニティの利点

  • 孤独になりにくい
  • 困ったときに助けてもらえる
  • 地域行事を通じた交流
  • 同世代の友人を作りやすい
  • 日々の会話の機会が多い

特に単身者や夫婦のみ世帯では、日常の小さなつながりが精神的な支えになります。

●“濃いコミュニティ”に向き不向きがある

ただし、コミュニティが濃いということは、

  • 生活がある程度見える
  • 人間関係が近い
  • プライベート感が薄いと感じる
    という側面もあります。

都会の匿名性に慣れた人にとっては、むしろ負担になることもあるため、自分の性格との相性を冷静に判断する必要があります。


4. 地方老後の最大の課題:医療アクセス

地方移住を考える人の多くが心配するのが「医療」です。

●地方医療の実態

  • 病院・クリニックの数が少ない
  • 専門医にすぐアクセスできない
  • 総合病院まで距離がある
  • 夜間対応が弱い地域もある
  • 介護施設の数に地域差が大きい

地方で暮らす場合、医療密度の低さは避けられません。
特に70代以降は、継続的な通院が必要になる人が増えるため、医療アクセスを軽視すると後悔する可能性があります。

●解決策

  • 病院が近い地域を選ぶ
  • 主要都市の郊外を選ぶ(地方でも医療密度が高い)
  • 車で20分以内に総合病院がある地域を優先
  • 在宅医療・訪問看護サービスの有無を確認

“自然が豊かで静か”という理由だけで判断するのは危険です。
地方選びは「医療と交通」を軸に慎重に検討することが重要です。


5. 交通手段と移動のしやすさも重要

地方の生活は車が前提になることが多いため、

  • 車の運転ができるか
  • いつまで運転できるか
  • 免許返納後の移動手段があるか
    を考える必要があります。

●免許返納後の生活を想像する

  • バスが1日に数本
  • タクシーが呼べない
  • 買い物が遠い
  • 歩道が整備されていない地域も

80代以降になると、移動の難しさが生活の質を大きく下げます。

地方移住の成功は、徒歩圏に生活基盤がある地域を選べるかどうかにかかっています。


6. 地方移住は「地域によって全く違う」

地方と言っても、

  • 政令指定都市
  • 地方中核都市
  • 郊外都市
  • 農村部
  • 離島
    では全く性格が異なります。

●比較基準は「人口規模」ではなく“生活圏の強さ”

  • 病院・買い物・銀行・役所が20分以内にあるか
  • 公共交通があるか
  • 生活圏が“車以外”にも対応しているか
  • 移住者が多い地域か(受け入れ慣れがある)

地方移住は「のどかで広い」というイメージだけで決めると、大きなギャップが生まれます。


7. 地方老後の暮らしは“向き不向き”が最も明確

地方暮らしは、価値観によって満足度が大きく変わります。

●地方暮らしが向いている人

  • 自然や広い住まいを重視する
  • コミュニティ参加が苦にならない
  • 車の運転に慣れている
  • DIYや家庭菜園が好き
  • 生活コストを抑えたい
  • 自分のペースで暮らしたい

●地方暮らしが向かない人

  • 車に依存した生活が不安
  • 医療アクセスを重視する
  • 人間関係の距離感は“都会の薄さ”が好き
  • 文化・趣味の選択肢が多い方が良い
  • 生活の細かい困りごとを自分で解決したくない

“地方の豊かさ”は、生活スキルや価値観に合ってこそ生きると言えます。


結論

地方で暮らす老後は、

  • 自然
  • 広い住環境
  • 生活コストの低さ
  • コミュニティのつながり
    という豊かさを享受できる魅力的な選択肢です。

ただし、医療と交通の不便さは避けられず、向き不向きがはっきり分かれます。
重要なのは“自分の価値観と生活力に合った地域”を選ぶことです。

地方は決して「都会に疲れたから行く場所」ではありません。
自分の生活スタイル、健康状態、家族との距離をふまえて最適な地域を選べば、都会とは別の形の豊かな老後が実現します。

次回の第4回では、老後の住まい選びに欠かせない
「医療・介護体制から考える“安全な老後の住まい”」
について詳しく解説します。

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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