第6回 遺言書 vs 家族信託 vs 生前贈与──どれを使うべきか(遺言書と人生デザインシリーズ)

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

遺言書を検討する人の多くが、次のような疑問を抱きます。

「家族信託ってよく聞くけれど、遺言書とはどう違うの?」
「贈与したほうがスムーズなのでは?」
「どの制度を使えば家族の負担が減るのか知りたい」

実務では、これら3つの制度は互いに代替関係に見えながら、実は“得意分野がまったく異なる”ものです。
そのため、「どれが一番良い」という絶対解はありません。

大切なのは、
目的に応じて最適な制度を組み合わせることです。

本稿では、税理士・FPとしての実務経験をもとに、
遺言書・家族信託・生前贈与の違いと使い分けを、
シンプルかつ実用的に整理します。

1.まず理解したい結論:

遺言書・家族信託・生前贈与は「競合」ではなく「役割が違う」

この3つは、

  • 遺言書:死後の財産承継を決める
  • 家族信託:生前の財産管理を任せる
  • 生前贈与:生きている間に財産を渡す

というように、
“時間軸”も“目的”も異なる制度です。

したがって、
「どれか1つを選ぶ」のではなく、
3つをどう組み合わせるかが重要になります。


2.遺言書の役割:死後の承継を確実にする“最後のメッセージ”

遺言書は、亡くなった後の財産の分け方(相続・遺贈)を指定する唯一のツールです。

遺言書の強み

  • 死後の承継を法的に決定できる
  • 不動産の承継指定が強い
  • 遺族の負担が大幅に軽減
  • 付言事項で“思い”を伝えられる
  • 家族信託や贈与と併用しやすい

遺言書の弱み

  • 認知症になると新しい遺言が作れなくなる
  • 生前の財産管理はできない
  • 相続人が慣れていないと実務が煩雑になる

死後の承継を整えるには必須ですが、
「生前の財産管理」には使えません。


3.家族信託の役割:認知症リスクに対応する“生前の財産管理”

家族信託は、
財産の管理・運用・処分を、生前から信頼できる家族に任せる契約
です。

認知症などで判断能力を失うと、
銀行口座が凍結され、不動産は売れなくなります。
これを回避するための制度が家族信託です。

家族信託の強み

  • 認知症になっても財産管理・売却が可能
  • 家族が柔軟に動ける
  • 後見制度より負担が少ない
  • 不動産の承継ルールも設定できる
  • 遺言書の代わりになるケースもある

家族信託の弱み

  • 税務・法律の理解が必要
  • 設計ミスは致命的
  • 信託口座・信託登記の手続きが複雑
  • 相続税の節税効果はない
  • 費用は遺言より高額になりやすい

特に向いているケース

  • 認知症リスクに備えたい
  • 一人暮らし・老老介護
  • 不動産が複数ある
  • 親が元気なうちに管理を任せたい
  • 障害のある家族を長期的に守りたい

4.生前贈与の役割:財産を“今のうちに”渡す、もっとも直接的な方法

生前贈与は、
生きている間に財産を渡す制度です。

生前贈与の強み

  • 渡した瞬間に所有権が移る
  • シンプルでわかりやすい
  • 少額なら贈与税がかからない(暦年贈与 年110万円)
  • 先に渡して安心したい高齢者に向く

生前贈与の弱み

  • 認知症になると贈与できない
  • 大きな金額は贈与税が高い
  • 税務署に否認される可能性
  • “名義預金”のリスクが高い
  • 計画性がないと逆に相続税が増える

贈与は「すぐに渡せる」反面、
税務リスクが高いため慎重な設計が必要です。


5.この三つをどう使い分けるか:目的別の「最適解」


■目的①:認知症になっても財産管理を止めたくない

家族信託 + 遺言書

家族信託で生前の管理を任せ、
遺言書で死後の承継を整理する。
最も実務的な組み合わせです。


■目的②:不動産を確実に承継させたい

遺言書(公正証書)が最適

不動産の承継指定は、
家族信託よりも遺言のほうが法的に強い局面が多くあります。


■目的③:将来のトラブルを避けたい

遺言書(公正証書)一択

家族信託よりも遺言書のほうが
「争族」を避ける力は強い。


■目的④:生前に少しずつ財産を移したい

生前贈与(ただし慎重に)

特に

  • NISA口座
  • 教育資金
  • 住宅取得資金
    などの制度を活用すれば効果的。

ただし、贈与税・名義預金に注意。


■目的⑤:障害のある家族を生涯守りたい

家族信託 + 遺言書 + 保険

長期的な生活支援が必要な家族を守るには、
複数制度を組み合わせるのが正解です。


■目的⑥:自分の死後、財産の使い方まで指定したい

家族信託が向く場合がある

遺言書では死後の一回限りの承継しか決められませんが、
家族信託なら「次の次の相続(後継ぎ遺贈型)」まで設計できます。


6.税理士・FPとしての“実務的ベストプラン”

結論を先に言うと、
もっとも汎用的で失敗しにくい組み合わせはこれです。


家族信託(生前の管理)+公正証書遺言(死後の承継)

これが標準形です。

  • 認知症リスクに備えられる
  • 不動産の承継も確実
  • 遺産分割トラブルを防げる
  • 税金面でも二次相続を踏まえた最適化が可能

さらに必要に応じて、

  • 生前贈与
  • 生命保険
  • 付言事項
    を追加します。

7.どの制度にも“得意・不得意”がある


制度得意不得意
遺言書死後の承継、トラブル回避生前管理、認知症対策
家族信託生前管理、認知症対策、長期承継税務が弱い、コストが高い
生前贈与すぐ渡せる、少額贈与が有効税務リスク、計画性の欠如

制度を単体で考えるほど失敗しやすく、
組み合わせるほど完成度が高まります。


結論

遺言書・家族信託・生前贈与は、どれが優れているというものではなく、
「人生のどの段階で、何を実現したいか」によって役割が変わる制度です。

  • 遺言書:死後の承継を確実にする
  • 家族信託:認知症を含む生前の管理
  • 生前贈与:今のうちに財産を渡す

この三つを理解し、
目的に応じて組み合わせることで、
財産管理と承継は驚くほどスムーズになります。

特に実務では、
「家族信託 × 公正証書遺言」
が最強の組み合わせです。

相続は「死後の問題」ではなく、
いまの人生をどうデザインするかを考えるためのプロセスです。

本シリーズを通じて、
あなたの人生と家族の未来を守る最適な選択肢を見つける一助となれば幸いです。


出典

・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました