遺言書は「その時のため」ではなく「今をよりよく生きるために」

FP
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最近、私の周りでも「遺言書を書いた」という話を耳にする機会が増えてきました。
事実婚のパートナーを守るため、親族間の相続トラブルを避けるため、あるいは自分の人生をきちんと終えたいという思いから——理由は人それぞれです。

しかし、遺言書の本当の価値は「死後の手続きのため」だけではありません。
むしろ、人生の最終章を自分らしく楽しむための整理のプロセスこそが、遺言書を書く最大の意味といえるのではないでしょうか。

本稿では、遺言書が「いまを生きる力」になる理由を、税理士・FPの視点からお伝えします。

遺言書は「特別な人」だけのものではない

「遺言書=お金持ちが残すもの」というイメージを持つ方は少なくありません。
しかし実際には、相続トラブルの7割は相続財産5,000万円以下、3割は1,000万円以下で発生しています。
特に、資産の大半が自宅というケースは分け方が難しく、兄弟姉妹で意見が割れる典型例です。

つまり、もっとも遺言書が必要なのは「ごく普通の家庭」こそなのです。

法的効力をもつ「遺言書」は“未来の争い”を防ぐ

民法の方式に従って作成する遺言書には、

  • 自宅を誰に渡すか
  • 預貯金をどのように分けるか
  • 法定相続人以外に財産を残す(遺贈)
    などを明確に指定でき、法的効力をもちます。

これにより、残された家族が話し合いで疲弊するのを防ぐことができます。

遺族は、ただでさえ精神的に大きなダメージを受けています。
そんな中で遺産分割協議をまとめるのは、本当に大きな負担です。
遺言書があれば、その負担は驚くほど軽減されます。

遺言書を書くことで「これからどう生きたいか」が見えてくる

ある方は70歳で公正証書遺言を作成しました。
資産の棚卸しをしながら書き進めるうちに、
「本当に考えるべきなのは、お金そのものではなく今後どう生きたいかだ」
と気づいたそうです。

遺言書を書いた後は表情が晴れやかになり、
「これで家族への責任を果たした。あとは自分の人生を楽しむだけ」
と肩の力が抜けたように見えたといいます。

これは非常に象徴的です。
遺言書とは、単なる文書ではなく、
自分の人生をどう締めくくり、残りの時間をどう使うかを見つめ直す“人生設計の行為”なのです。

遺族にとっての「最大の思いやり」になる

遺言書は、遺された家族の精神的負担を大きく軽減します。
相続手続きは驚くほど複雑で、遺族の心が弱っている時期には特にきついものです。

遺言書があれば、

  • 分割協議が不要
  • 争いを未然に防げる
  • 手続きをスムーズに進められる
    というメリットがあります。

これは大切な家族のための贈り物といっても過言ではありません。

専門家に相談しながら、自分らしい遺言書を作る

遺言書には法的要件があります。
形式が整っていなければ無効になるリスクもあります。

そのため、税理士・司法書士・弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
内容の妥当性や相続税への影響を確認しながら、
「自分の思い」と「法律上の有効性」を両立させた遺言書を作成できます。


結論

遺言書は「死後のために書くもの」と考えられがちですが、実際には “今をよりよく生きるための整理” としての意味が大きいものです。

  • 争いを避けるため
  • 家族の負担を減らすため
  • そして、自分自身が人生を楽しむため

この三つを同時に叶えてくれるのが、遺言書です。

もし「いつか書こう」と思っているなら、
その“いつか”を「今」に変えてみませんか。
遺言書は、人生の終わりの準備ではなく、
今日を大切に生きるための第一歩になるはずです。


出典

・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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