半導体市場は2025年にかけて過去最高規模へ向かっています。けん引役となっているのは、生成AIの急拡大です。これまでAI向け半導体といえば主に「学習」用途のGPUが注目されてきました。しかし現在は、実際に答えを返す「推論」用途が一気に増える局面に入り、必要とされる半導体の種類や量が大きく変化しています。
本稿では、半導体市場の最新動向を一般の読者にも分かりやすく整理し、「何が起きているのか」「どこにリスクがあるのか」を丁寧に解説します。
1. 生成AIが市場全体をけん引
世界の主要半導体企業の業績は10~12月期も堅調で、伸びの中心は生成AI向けの需要です。統計機関WSTSが発表した2024年7~9月の市場規模は前年同期比25.1%増。8四半期連続の増加で、2025年の市場規模は7,600億ドル(約118兆円)と過去最高が見込まれています。
AI向けGPUを生産するTSMCは7~9月期の売上が30.3%増加。メモリー大手サムスン電子も2四半期ぶりに増収となり、AI需要が幅広い半導体分野を押し上げていることがうかがえます。
2. 「推論」用途のデータ量がついに学習を超えた
2025年に入り、AIが大量の処理をこなす「推論」用途のデータ量が、初めて学習用途を上回ったと指摘されています。推論は利用者とのやり取りのたびに計算し、応答を返すため、膨大なデータがリアルタイムにやり取りされます。
その結果、以下のような半導体の需要が急増しています。
- GPU(画像処理プロセッサ):生成AIの中核。依然として高い需要。
- HBM(広帯域メモリー):GPUと連携し、大量のデータを高速に処理する“超高速メモリー”。
- NAND型フラッシュメモリー:生成AIの推論用データの保存や高速読み書きに不可欠。
実際にNAND世界3位のキオクシアは、AIデータセンター向け需要が「2026年も供給を上回る状況が続く」と見ています。
3. 半導体製造装置の投資も活況
半導体の“製造装置”企業にも追い風が吹いています。
- 東京エレクトロン
「AI時代の到来」と述べ、最先端ロジックやDRAM向け投資が急増中。 - アドバンテスト
半導体の検査装置を手がけ、事業環境に対する自信がさらに深まっていると発言。
製造装置は半導体業界全体の投資姿勢を最も敏感に反映する分野であり、AIブームが単なる一過性ではないことを示しています。
4. 基板となるシリコンウエハーも堅調に回復
シリコンウエハーの需要も回復基調です。特に300ミリメートルウエハー(最先端プロセス向け)は、2025年1~3月を底に上向きが続く見通しです。AI向けロジック半導体の生産増が背景にあります。
5. 差が広がる“先端”と“旧世代”
一方で、車載用などの旧世代半導体は回復が遅れています。要因には以下が挙げられます。
- 中国を中心とした在庫調整
- EV販売の伸び悩み
- 競争激化による価格下落
またオランダ政府と中国企業の対立による一時的な供給停止もありましたが、現時点では大きな需給の乱れにはつながっていません。
6. 電子部品メーカーにもプラスの影響
村田製作所、TDK、アルプスアルパインなど主要電子部品メーカーは業績見通しを上方修正しました。円安に加え、米国の関税措置による需要減少懸念が想定より軽微だったためです。AIサーバー向けの部品需要も底堅いとみられています。
7. AIデータセンターの電力不足という「新たな懸念」
半導体の需要面では陰りは見られませんが、新たなリスクとして電力不足が指摘されています。AIデータセンターは莫大な電力を消費するため、世界各地で電力供給が追いつかない恐れがあります。
2026年以降、電力制約が半導体需要の伸びを抑える要因となる可能性も否定できません。
結論
生成AIの急拡大により、半導体市場は2025年に過去最高規模へ向かっています。これまでの「学習中心」から「推論中心」へと用途が急速に移行し、GPU・HBM・NANDといった幅広い半導体の需要が上振れしています。
製造装置、ウエハー、電子部品にも恩恵が広がる一方、旧世代の車載半導体は回復が遅れ、AIデータセンターの電力不足という新たなリスクも浮上しています。
半導体市場は今後もAIとともに拡大する一方、産業構造やエネルギー政策を巻き込んだ大きな転換点に差し掛かっているといえます。
出典
日本経済新聞「生成AI、記憶半導体に恩恵」(2025年11月28日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

