教育費の早期化、住宅価格の高騰、共働き前提の子育て——。近年、30代の家計には負担が重くのしかかっています。しかし家計を左右するもう一つの大きな要因が「働き方・職場環境の変化」です。
若手の賃上げが進む一方、中堅社員の処遇は伸び悩み、自身のキャリアや収入の将来像が描きづらい状況が広がっています。企業文化や人事制度への“静かな失望”が、30代の転職意欲を高め、家計の安定にも影響を与えています。
本稿では、転職増加の背景にある企業と30代社員のミスマッチを整理し、「家計」「働き方」「企業の課題」がどのように結びついているのかを補足的に解説します。
1. 「報われない努力」への失望が転職を加速
大手電機メーカーに11年勤めた34歳のエンジニアは、2024年末に退職を決めました。
・成果を上げても評価されない
・上司が抜てき人事を拒否
・“働かない万年課長”のほうが高給
という状況が重なり、「この会社はもうダメだ」と感じたといいます。
転職活動はわずか2週間。
提示された年収は前職より 300万円増の1100万円超。
評価される環境と、働いた分だけ収入が伸びる仕組みを求めた結果でした。
2. 30代の転職希望が急増する理由
IT転職支援のレバテックによれば、
30代の転職希望は5年で1.75倍に増加。
転職理由の上位には
・収入アップが見込めない
・スキルアップができない
・残業時間が多い
といった、「見通しのなさ」への不安が並びます。
■ JTC(日本型企業文化)の限界
多くの企業で、
・年功序列
・終身雇用の前提
・出世と年次の紐付け
といった伝統的文化が残っています。
しかし、
“努力や結果が正当に評価されない”という感覚が、30代の不満を加速
させています。
3. 若手の賃上げの裏で、中堅社員の処遇が停滞
2025年の大卒初任給は過去最高水準へ。
30万円超の企業も増え、若手の待遇改善が一気に進んでいます。
しかしその裏で、
中堅社員の給料の伸びが抑えられる
傾向が強まっています。
採用を絞ったリーマン・ショック前後の入社組は人員が少なく、
・会社を支えてきた
・職場を回す中心層
であるのに、十分に報われていないという構図が生まれています。
リクルートワークス研究所の専門家は
「30代が離れれば企業の屋台骨が揺らぐ」
と警鐘を鳴らしています。
4. 企業側も改革を始めている
こうした危機感を背景に、企業も変わり始めています。
■ 住友生命保険
・2026年度から中堅社員の年収を最大5割引き上げ
・年次連動の資格給を圧縮
・役割給・貢献度評価を重視
・重要ポストへの積極登用
エンゲージメントスコア(働きがい指標)は若手で10ポイント改善。
■ 雪印メグミルク
30歳・38歳向けに
・価値観整理ワークショップ
・キャリアビジョン策定シート
を導入。
2025年度からは30歳社員の
キャリアコンサルタント面談を必須化。
これらの取り組みは、
“企業が社員をちゃんと見ている”という態度を示すプッシュ型支援
として評価されています。
5. 働き方のミスマッチは家計にも影響する
働き方の停滞は、家計にも直接影響します。
■ 昇給しない
→ 教育費の前倒しや住宅費の高騰に追いつかない
→ 貯蓄スピードが落ちる
■ スキルが伸びない
→ 転職市場での評価が上がらない
→ 世帯の生涯所得に影響(特に女性)
■ 不満が蓄積
→ 30代での転職が増える
→ 転職後に収入が上がったとしても、一時的に不安定になる場合も
30代の家計を考える上で、
“会社に居続けた場合の将来所得”
“働く環境の伸びしろ”
をセットで考えることが欠かせません。
結論
30代が転職を選ぶ背景には、
「努力が報われない」「成長の実感が得られない」
という企業と働き手のミスマッチがあります。
一方で、企業も徐々に改革を進めており、
・役割と貢献度に応じた処遇
・キャリア支援の強化
・30代を組織の軸として捉える姿勢
が広がりつつあります。
30代にとって重要なのは、
「この会社に残った場合のキャリアと家計」
「転職した場合のキャリアと家計」
を長期で比較する視点です。
教育費・住宅費・老後資金が重なる世代だからこそ、
自分の働き方や職場環境が“家計の未来そのもの”に直結します。
企業が社員を大切にする姿勢を示すかどうか。
そして働き手も、自分のキャリアと家計を主体的に育てていくこと。
その両方が、これからの30代の安定に欠かせない要素といえます。
出典
・日本経済新聞「惑う30代 成長の盲点(下)」
・産労総合研究所「初任給調査」
・リクルートワークス研究所資料
・企業の公開資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

