惑う30代の家計 ― 教育・住宅・働き方に負担が集中する時代

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働き方改革が進み、共働きが前提となった現代の30代。しかし、多くの人が「家計に余裕が生まれない」と感じています。背景には、教育費の早期化、住宅価格の高騰、そして働き続けること自体のハードルといった、複数の負担が重なる構造があります。

本総集編では、シリーズ3回(上・中・下)で扱った
① 教育費の前倒し化
② 住宅取得の難しさ
③ 働き方と生涯所得の差

という3つの視点を一度に整理し、現代の30代が直面する家計のリスクと、今後の生き方・働き方のヒントをまとめます。

1. 教育費は「早く始まり、長く続く」時代へ

従来は「小学校卒業までが貯めどき」でしたが、近年は
小学校中学年までへと大きく短縮
されています。

■ 教育費が前倒し化する要因

・中学受験が“思考力・表現力”重視へ
・詰め込み教育では対応しづらくなった
・習い事・学習塾の低年齢化
・小学校受験を選ぶ家庭の増加
・共働きによる教育投資の前倒し

都内では、小学校受験対策として年中から塾に入る家庭も珍しくありません。塾側も5〜6歳向けの中学受験基礎コースを設置するなど、「教育の早期化」は既にトレンドとなっています。

■ 家計への影響

・貯蓄ペースが想定より早く鈍化
・住宅費・老後資金との同時準備が難しくなる
・親の働き方(特に母親)に家計の将来が左右される

教育費の前倒しは、30代家計に“静かな圧力”として確実に積み重なっています。


2. 住宅取得は「30代で買う時代」ではなくなった

住宅価格の高騰により、30代の持ち家率は大きく低下しています。

■ データで見る現実

30代後半の持ち家率
・1983年:60.1%
・2023年:44.1%

新築マンションは都心部で1億円前後、郊外でも7000万円台が珍しくありません。住宅購入は、かつての「結婚→出産→購入」というモデルでは成立しづらくなっています。

■ 多様化する居住戦略

・賃貸を延ばす
・中古×リフォームに切り替える
・実家不動産を活用する
・立地や広さの優先順位を見直す
・共働きや教育費との“家計バランス”を優先する

特にリフォームを含む中古活用は、
「生活基盤を整えつつ、無理なく返済可能」
という点で、30代に選ばれやすい選択肢になっています。

住宅選びは「家の価値」より「家計全体の持続性」を優先する時代です。


3. 共働きでも家計が苦しい理由

制度の改善で女性が働き続けやすくなった一方で、家計の余裕は必ずしも増えていません。

■ 支出増が制度改善の効果を相殺

・学童保育・延長保育
・シッター・家事代行
・習い事送迎
・塾代の高騰
働くほど子育てコストが増える構造が、30代の負担をより重くしています。

■ 女性のキャリアに残る「L字カーブ」

M字カーブは改善したものの、
出産後に正規雇用率が下がる“L字カーブ”は依然として健在。

非正規化・時短化・キャリア中断は、家計の将来に大きな影響を与えます。

■ 生涯可処分所得の差は最大8700万円

内閣府の試算では、
「妻が正社員継続」と
「非正規フルタイムに転じた場合」では、
世帯の生涯可処分所得に約8700万円の差
が生まれます。

これは、
・住宅ローンの借入額
・教育費の選択肢
・老後資金
に直結する数字です。

■ 結論として

“共働きを続けること”そのものが、最大のリスク管理になる時代。
という構造が浮かび上がります。


4. 30代の消費意欲は日本経済にとっても不可欠

個人消費は日本のGDPの約5割を占めます。
つまり30代の家計負担が軽くなり消費余力が増えることは、
社会全体の成長力にも直結します。

教育・住宅・働き方の負担を適切に調整できるかどうかは、個人だけでなく日本経済にとっても極めて重要なテーマです。


結論

現代の30代は、過去のどの世代よりも
教育・住宅・子育て・働き方の課題が早い段階で集中する世代
です。

そのため、
・教育費の早期化を前提にした資金設計
・住宅購入のタイミングと手段の柔軟化
・女性のキャリア継続を“家計戦略”として捉える
・家計を「長期」で考える視点
が欠かせません。

社会としても、30代の負担を軽減し、消費意欲を引き出す政策が必要です。

30代の多くが抱える「ゆとりがない」という感覚は個々の問題ではなく、構造的な現象です。その構造を理解し、先回りした計画を立てることが、これからの家計運営における最も重要なポイントといえます。


出典

・日本経済新聞「惑う30代 成長の盲点(中)」
・総務省「住宅・土地統計調査」
・内閣府「就労継続と所得に関する試算」
・ニッセイ基礎研究所公開資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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