金利の仕組みをどう見るか 国債と財政運営を読み解くための実践的な視点

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近年、日本では金利や国債に関する話題が急増しています。2025年に入ってからは特に超長期金利が大きく上昇し、財政運営や国債市場のあり方が改めて注目されるようになりました。長期金利の動きは国の財政だけでなく、住宅ローン、企業の資金調達、市場全体のリスク認識など、多方面に影響を与えます。

本稿では、金利の基本理論と国債市場の需給構造を分かりやすく整理し、なぜ長期金利が動くのか、これからの金利議論をどう捉えれば良いのかについて解説します。

1. 長期金利は何で決まるのか

ファイナンスの教科書では、長期金利は将来の短期金利の予測から導かれると説明されます。
簡潔に言えば、長期金利は短期金利の集合体です。

例えば次のようなケースを考えます。

  • 現在の1年金利は1%
  • 1年後の1年金利も1%と予測

このとき、2年間の投資をする投資家にとって
(1) 今1年債に投資して1年後に再び1年債に投資する
(2) 最初から2年債に投資する
という2つの選択肢は利回りが等しくなります。
その結果、2年金利は1%に収れんします。

もし投資家が1年後の金利を3%と予想すれば、2年金利は2%に上がります。
これを長い期間に拡張すれば、10年金利は将来10年間の短期金利の平均から導かれます。

つまり
長期金利が上昇するとき、それは市場が将来の短期金利上昇を織り込み始めたサイン
と捉えることができます。

2. タームプレミアムという考え方

理論上は将来の短期金利の平均で長期金利が決まりますが、実務ではもう一つ重要な要素があります。それがタームプレミアムです。

長期債ほど保有期間が長く、金利が動いたときの価格変動が大きくなります。
例えば10年金利が動いたときの10年債価格の変動は、1年債の約10倍と言われます。

そのため投資家は、リスクの高い長期債を持つ代わりに補償として上乗せの金利を求めます。これがタームプレミアムです。

まとめると
長期金利 = 将来の短期金利の平均 + タームプレミアム
という構造になります。

3. 国債市場は「年限ごとに別の市場」

理論だけでは把握しきれないのが、実務的な需給の差です。
日本の国債は年限によって投資家層が明確に異なります。

  • 短期〜中期:銀行
  • 長期〜超長期:生命保険会社

銀行はいつ引き出されるか分からない預金を抱えており、資産の年限を短く保つ必要があります。
一方、生保は保険金支払いまでの期間が長いため、30〜40年といった超長期債を好みます。

この考え方はALM(資産負債管理)と呼ばれ、金融機関は負債の性質に合わせて国債を選びます。

そのため、市場は次のように分断されています。

  • 発行量の大きい短・中・長期ゾーン
  • 投資家層が限定される超長期ゾーン

2025年に発生した超長期金利の急騰は、生保の超長期国債への需要が減ったこと(いわゆるALMショック)が大きな要因と指摘されています。

4. 財務省の発行戦略と金利

財務省は国債の年限ごとに発行量を調整しています。
近年は発行年限を延ばしてきたため、市場に供給される金利リスクが増えていました。

その中で超長期債の需要が弱まり、金利上昇が起きたため、2025年6月には超長期債の発行減額を含む発行計画の修正が行われました。
このように、国債発行の年限別需給は金利に強い影響を与えます。

5. 短期金利は日銀が直接コントロール

短期国債の金利は、日銀が付利金利や無担保コールレートとの裁定を通じて実質的にコントロールしています。
そのため短期ゾーンはほぼ金融政策に従います。

一方で長期ゾーン、とりわけ超長期ゾーンは需給の影響が大きいため、短期金利とは全く異なる動きを見せることがあります。

6. 実質金利で財政を見るという視点

2025年現在、10年国債金利は1.7%程度ですが、インフレ率と期待インフレ率は2%超です。
つまり実質金利はマイナスです。

これは
国が借金をするほど実質的には得をしている状態
とも言えます。

このため、日本で財政再建の議論が盛り上がらない理由の一つとして、長期金利が低位にとどまり続けていることが挙げられます。

もし金利が大きく上昇し、インフレ率を上回るようになれば、財政再建への関心が一気に高まる可能性があります。
日本の金融市場は特定のきっかけで空気が一変することが多く、円高・円安の議論の変遷がその典型です。

結論

金利の議論は、一括して語るのではなく、短期・長期・超長期を分けて考える必要があります。
特に超長期金利は需給による影響が大きく、生保の行動や発行計画の変化が直接反映されます。

これから財政や金利を理解する上では、

  • 将来の短期金利の予測
  • タームプレミアム
  • 年限ごとの投資家特性
  • 国債発行の年限構成
  • 実質金利
    といった要素を組み合わせて考えることが重要です。

金利は経済の体温計であり、財政運営の基盤でもあります。
実態に即して多面的に理解することで、将来の政策や市場の動きをより正確に読み解く手助けとなるはずです。

出典

日経新聞「積極財政を問う(金利の実態に即した議論を)」
金融庁・日本銀行公開資料
財務省 国債発行計画関連資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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