「病気やケガで働けなくなったとき、収入がどれだけ確保されるのか」。
この問いに対する答えは、会社員・公務員と自営業・フリーランスでは大きく異なります。社会保障制度の仕組みそのものが違うため、同じ就労不能でも受けられる公的サポートに大きな差が生まれます。
今回は、両者の違いを分かりやすく整理し、自分に必要な保障を把握するための基礎を解説します。
1. 収入の「支え方」が職業でまったく違う
働けなくなったときに頼れる制度は、次の3つです。
- 有給休暇(会社員)
- 傷病手当金(会社員・公務員に限定)
- 障害年金(全員が対象だが内容は異なる)
このうち最も重要なのが 傷病手当金の有無 であり、これが保障の差を生む最大のポイントになります。
2. 会社員・公務員は「傷病手当金」という強力な収入補填がある
会社員や公務員が加入している健康保険には、働けなくなったときの収入を補う「傷病手当金」があります。
■ 傷病手当金の仕組み
- 支給開始:病気・ケガで連続3日間の待機後、4日目から
- 金額:標準報酬月額の約3分の2
- 期間:最長1年6カ月
- 同一疾病の場合、期間は通算
- 症状が軽快して一度復職しても、残期間で再支給されることがある
- 組合によっては付加給付や延長制度がある
この制度により、会社員は「収入ゼロ」になりにくく、一定期間の生活は維持しやすくなっています。
3. 会社員には「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」を導入する企業も増えている
近年、企業の福利厚生として「GLTD(Group Long Term Disability)」制度を導入する会社が増えています。
■ GLTDとは
- 従業員が長期間働けなくなった時、収入を補う制度
- 会社負担か本人負担、または併用で加入できる
- 退職後も給付が続くケースがある
- 給付期間は最長で定年まで続くこともある
会社によって内容は大きく異なりますが、導入企業で働く人にとっては公的制度の不足分を補う強力な仕組みです。
4. 自営業・フリーランスには「傷病手当金がない」
一方、自営業やフリーランスは国民健康保険に加入していますが、そこには 傷病手当金がありません。
働けない=すぐに収入ゼロ
という構造になっているため、以下のような家計リスクが直ちに表面化します。
- 住宅ローンや家賃の支払い
- 社会保険料・税金
- 生活費
- 子どもの教育費
- 通院に伴う交通費
収入を代替する仕組みが最初から少ないため、就業不能保険の必要度は会社員よりも高い傾向があります。
5. 障害年金は全員対象だが、内容は大きく差がある
■ 共通ルール
障害年金は「初診日から1年6カ月経過後」に認定されます。
- 1級・2級:障害基礎年金(全員)
- 3級:障害厚生年金(厚生年金加入者のみ)
■ 大きな差はここ
- 自営業:基礎年金のみ(1・2級)
- 会社員:基礎年金+厚生年金(1〜3級)
つまり、同じケガや病気でも、会社員のほうが受け取れる可能性が高く、金額も大きくなります。
■ 注意点
精神疾患やがん治療でも認定されることはありますが、日常生活能力と就労状況が厳格に判断されるため、期待しすぎるのは禁物です。
6. 収入補填の違いを図で整理するとこうなる
■ 会社員・公務員
- 有給休暇で当面の収入確保
- 傷病手当金で1年6カ月カバー
- 障害年金(1〜3級)で長期補填
- 企業のGLTDがあれば手厚い
→「穴」が比較的小さい
■ 自営業・フリーランス
- 有給なし
- 傷病手当金なし
- 障害年金(1・2級のみ)
- 長期治療は収入ゼロが続く
→「穴」が大きく、長期離脱に極めて弱い
結論
会社員・公務員と自営業では、働けなくなったときの収入補填の仕組みが根本的に異なります。会社員には傷病手当金やGLTDなど、一定のセーフティネットが備わっている一方、自営業は働けない期間がそのまま収入減少につながり、家計のダメージは大きくなります。
そのため、自営業・フリーランスはとくに就業不能保険による補完が重要であり、会社員の場合も勤務先の制度を確認したうえで不足分だけを補う設計が合理的です。
次回は、実際に就業不能保険へ加入する際の「チェックポイント」を詳細に整理します。
出典
・健康保険法
・国民年金法、厚生年金保険法
・日本FP協会「FPコラム」
・各健康保険組合・共済組合の公開資料
・GLTD制度に関する各社公開情報
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
