「病気やケガで働けなくなったとき、生活費はどうなるのか」。
医療保険や死亡保険には加入していても、この問いにすぐ答えられる人は多くありません。現代では医療技術が進歩し、重い病気でも治療によって命を落とさずに済む場面が増えています。しかしその一方で、「治療の長期化」と「収入の中断」という別のリスクが浮かび上がっています。
生命保険文化センターの調査では、世帯主が就労不能となった際の経済面に「不安」を感じている人は74.6%にのぼり、多くの家庭が収入減少に強い懸念を持っています。それにもかかわらず、就業不能に備える制度や保険への加入は十分とはいえない現状があります。本稿ではまず、「働けなくなるリスクとは何か」を具体的に整理します。
1. 働けない期間が長くなる現代
医療技術の進歩は命を救う一方で、治療が長期化し、就労不能の期間が長くなる傾向があります。
- がん治療の長期化
- うつ病や適応障害などメンタル疾患の増加
- 慢性疾患の増加
- リハビリ期間の長期化
これらの要因により、「死亡」よりも「長く働けない」リスクが家計に深刻な影響を与える場面が増えています。
2. 収入は突然止まる
働けない期間が始まると、収入が途絶えるスピードは意外と早く訪れます。
- 自営業・フリーランスの場合
→働けない=すぐに収入ゼロ - 会社員の場合
→有給消化後は傷病手当金へ移行し、給与の約3分の2が目安
特に自営業は、働き続けることによって収入を維持していたため、停止すると即座に影響が出ます。
3. 支出は止まらない
収入とは対照的に、生活費は待ってくれません。
- 家賃・住宅ローン
- 光熱費
- 食費
- 保険料
- 教育費
- 社会保険料
- 税金
- ローン返済
- 通院・治療に伴う交通費
さらに、病気やケガによって治療費や雑費が増え、支出はむしろ増加することさえあります。
4. 社会保障は万能ではない
会社員の場合は「傷病手当金」という収入補填制度がありますが、完全にカバーできるものではありません。
- 有給休暇:残日数に限界がある
- 傷病手当金:標準報酬月額の約3分の2
- 期間:最長1年6カ月
- 再発時:同一疾病は期間通算
- 精神疾患は認定が厳しいケースもある
また、自営業・フリーランスには傷病手当金がありません。
障害年金も1年6カ月経過後にしか受給できず、等級が厳格に決められているため、多くは対象外になります。
5. 収入がない期間は「家計の空白期間」
収入が途絶えると、家計に深刻な空白が生じます。
- 住宅ローン返済の遅延
- 子どもの教育費の捻出困難
- 預貯金の急速な減少
- 家族の生活水準の低下
- 長期離職による再就職の難しさ
- メンタル面の悪化による回復遅延
短期の離職なら耐えられても、半年〜1年以上に及ぶと、多くの家庭で家計破綻リスクが一気に高まります。
結論
働けなくなるリスクは、誰にとっても起こり得る現実的な問題です。治療技術が発達した現代では「死亡」より「長く働けない」状態が家計への影響を強めています。収入は早く途絶え、支出は止まりません。会社員でも自営業でも、社会保障は一定の役割を果たすものの万能ではなく、特に自営業やフリーランスは手薄です。
まずは「働けないリスクの構造」を理解することが、自分に必要な保障額や保険の種類を考える第一歩になります。次回は、このリスクに備えるための保険商品である「就業不能保険とは何か」を整理します。
出典
・生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」
・日本FP協会「FPコラム」
・健康保険法、国民年金法 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
