【第4回】慰謝料と養育費の取り決め —— 確実に受け取るための新制度とポイント

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離婚時のお金の中でも、もっとも誤解が多く、感情的な対立につながりやすいのが「慰謝料」と「養育費」です。慰謝料は精神的苦痛に対する賠償であり、養育費は子どもの生活を維持するための費用で、目的が異なります。また、これらの取り決めは、話し合いだけでは不十分で、書面化や法的な手続きが必要な場合もあります。加えて、2024年の民法・家事事件手続法の改正により、養育費の確保を目的とした新しい制度が導入されるなど、離婚後の生活を支える仕組みも強化されました。本稿では、慰謝料・養育費の考え方から、強制執行制度の改善点まで、押さえておくべきポイントを整理します。

1 慰謝料と養育費は目的が異なる

まず、慰謝料と養育費はまったく性質の異なるお金です。

項目慰謝料養育費
目的精神的苦痛への賠償子どもの生活費・教育費
対象配偶者本人子ども(監護する親に支払われる)
発生する場面不法行為(不貞行為・DVなど)が認められた場合子どもを監護する親が請求した場合

この違いを理解することで、離婚時の話し合いがスムーズになり、請求の根拠が明確になります。


2 慰謝料が認められるケース

慰謝料は「離婚すれば必ずもらえる」というものではありません。法的に認められるのは、主に次のような場合です。

  • 不貞行為(浮気)が明確で証拠がある
  • 配偶者からのDV・モラハラが立証できる
  • 悪意の遺棄(生活費を渡さない・家を出たなど)
  • 離婚それ自体に重大な精神的損害が認められる場合

慰謝料の相場はケースによって大きく異なり、数十万円から数百万円まで幅があります。


3 養育費の基礎

養育費は、子どもの食費、衣服費、教育費、医療費など、子どもの生活に必要な費用をまかなうためのものです。

● 請求できるのは誰か

子どもを監護している親が請求できます。
請求は子の権利であり、「夫婦の合意が必要」ではありません。

● 金額の決め方

家庭裁判所が公表している「養育費算定表」を用いて、

  • 双方の収入
  • 子どもの人数
  • 年齢
    から、標準的な額が導かれます。

4 慰謝料・養育費の取り決め方法

取り決め方法は次の3段階に整理できます。

(1)夫婦間の話し合い

もっとも一般的な方法ですが、口頭での約束は後のトラブルにつながります。
合意内容は必ず書面に残しましょう。

(2)公正証書の作成

公正証書に「支払いがなければ強制執行ができる」旨を記載することで、相手が支払わない場合でも、裁判を経ずに給料や預金を差し押さえることができます。

(3)調停・審判

話し合いが難しい場合、家庭裁判所の調停を利用します。調停が不成立の場合は審判で裁判所が金額を決定します。


5 2024年法改正:養育費確保のための新制度

2024年の民法・家事事件手続法等の改正により、養育費の不払いを防ぐための仕組みが大きく見直されました。

(1)法定養育費制度

離婚時に養育費の取り決めをしていない場合でも、後から「法定養育費」を請求できる制度が設けられました。
これにより、合意がないまま離婚してしまったケースでも、子どもの生活を守る最低限の仕組みが整います。

(2)私的合意の強制執行が容易に

従来は、公正証書などがなければ強制執行が難しい面がありました。
改正により、

  • 私的に取り決めた養育費合意
  • 家庭裁判所の調停に至らない書面
    などに基づく民事執行がしやすくなりました。

(3)裁判手続きの利便性改善

住所調査の簡素化や、収入情報の調査がよりスムーズに進められる仕組みが整備され、支払い確保がしやすくなりました。


6 不払いへの対応:強制執行の流れ

慰謝料や養育費の不払いが生じた場合、次の方法で回収できます。

  • 給与の差押え
  • 預金口座の差押え
  • 財産調査(裁判所を通じて実施)

公正証書または調停・審判の記録があれば手続きがスムーズです。
2024年以降は、強制執行制度が改善されているため、従来より回収しやすくなっています。


7 取り決めは「離婚前」が基本

慰謝料・養育費は、離婚後よりも離婚前の段階で取り決める方が圧倒的にスムーズです。

  • 離婚後は連絡が取りにくくなる
  • 所在不明・転職などで状況把握が困難になる
  • 書類の取得が難しくなる

これらのリスクが高まるため、離婚前に可能な限り話し合いと書面化を進めておきましょう。


結論

慰謝料と養育費は、目的も性質も異なるお金であり、それぞれに適切な取り決めが必要です。2024年の法改正により、養育費の確保に向けた仕組みが強化され、離婚時の取り決めがない場合でも一定の法定養育費を請求できるようになりました。支払いを確実にするためには、話し合いだけでなく、公正証書や調停手続きを利用し、法的に効力のある形で取り決めを残すことが重要です。次回は、離婚後の生活設計について、住まい・収入・公的支援の視点から具体的に解説します。


出典

・日本FP協会コラム「慰謝料・養育費に関する基礎知識」
・2024年民法・家事事件手続法改正(養育費関連)
・家庭裁判所「養育費算定表」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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