2025年の日本社会では、排外主義の台頭やポピュリズム政治の伸長が注目を集めました。参院選では「日本人ファースト」を掲げる政党が躍進し、政治がより極端な主張を取り込みやすい状況にあると指摘されています。しかし、排外的な言説が社会に浸透しているわけではなく、その背景には長年続く停滞や不安が積み重なっています。そして今、政権が掲げる「責任ある積極財政」とは何かが改めて問われています。この記事では、排外主義とポピュリズムが広がる土壌を振り返りながら、財政の方向性が社会に与える影響を整理します。
1 排外主義は「思想」ではなく、停滞と不信の帰結
2025年の参院選では、外国人政策をめぐる強いメッセージが有権者の注目を集めました。しかし社会学者の分析によると、実際には日本社会全体の排外的傾向が強まっているわけではありません。定住外国人の増加によるメリットを感じる人の割合はむしろ増えています。
それでも「日本人ファースト」が支持された背景には、長期停滞のなかで蓄積した不信があります。1990年代半ば以降の財政危機論や緊縮の流れの中で、公共投資や自治体、生活保護、官僚機構などが「既得権者」として批判され、社会の視線が分断的に向けられてきました。収入が伸び悩む一方、税や社会保険料負担は増加し、生活の余裕が失われた人々の不満が向かう先が「新たな既得権者」と見なされた外国人だった、という構造が見えてきます。
排外主義の根底にあるのは思想ではなく停滞と不安です。これは歴史的な現象でもあり、中間層や若年層の不安が高まるとき、排外主義は支持を得やすくなります。
2 ポピュリズムが拡大する仕組み
ポピュリズムは「生活が苦しい人々」を「私たち」という輪に引き寄せ、対立軸を明確にすることで支持を獲得する政治手法です。既得権者や外国人を「私たち以外」として攻撃する構図は歴史的にも繰り返されてきました。
2025年の選挙で減税や給付が多くの政党から示されたのは、この「私たち」を広げるための手法でもあります。受益者を限定しない政策は、多くの有権者を包み込む一方で、財源負担はますます重くなります。特に消費減税などは広く受け入れられる一方で、低所得層へのメリットは限定的であり、巨額の財源を必要とします。こうした政策競争は、やがてより極端な主張へと政策を押し出す危険性があります。
3 積極財政が「極端主義」と結びつく危うさ
歴史を振り返ると、ナチス・ドイツが排外主義と積極財政を同時に駆使していた点は重要です。外国人排除・純血主義へと傾く一方で、巨額の財政支出が行われていました。極端な排外主義と財政拡大の組み合わせは政治を暴走させやすく、その危険性は現代にも通じています。
日本でも「反既得権」「反グローバリゼーション」「反緊縮」といった掛け声は、戦前に起きた「反財閥・反既成政党」「経済ブロック化」「空前の積極財政」と類似しています。財政の方向性が社会の連帯を生むこともあれば、分断を促すこともあるため、積極財政を掲げるのであれば倫理的な基盤が不可欠です。
4 財政は「社会の紐帯」である
税は負担であり、給付は利益ですが、財政の使命は利害の調整だけではありません。誰もが医療や介護、教育などを一定の負担で享受できる社会は、税と給付が支え合うことで成り立ちます。このバランスこそが社会の連帯を生み、将来不安を低減する要素になります。
一方で、過度な給付に依存する仕組みや、負担を避けるだけの政策は社会の信頼を壊します。わずかな給付で歓心を買い、財源の議論を軽視する政治は、国民同士が「もらえるかどうか」を競い合う分断社会を生み、排外主義の土壌ともなります。
本来の財政は、負担と給付の公正さを通じて連帯を育む営みです。教育費や介護の負担軽減など、将来の安心につながる分野に的確に投資することで、個人の自立と社会の安定は初めて両立します。
5 「責任ある積極財政」とは何を目指すべきか
借金を恐れず支出を拡大するだけでは、積極財政とは言えません。将来不安を解消し、社会全体の自立と連帯を高めることが本来の目的であるはずです。
例えば、消費税率を1.8%引き上げれば、大学授業料の負担軽減や介護費の自己負担縮小などを現実的に進められる試算もあります。こうした方向性は、負担を分かち合いながら社会保障を充実させる“責任ある”積極財政の姿ともいえます。
財政は国民の所得を一時的に増やす道具ではなく、社会の将来を形づくる基盤です。給付と負担を丁寧に議論し、納税者が公正さを実感できる財政運営こそが、排外主義やポピュリズムに依存しない政治の礎になります。
結論
2025年に見られた排外主義やポピュリズムの広がりは、思想やイデオロギーよりも、長期の停滞と不信、そして将来への不安が生んだ現象といえます。政治が極端主義へ傾かないためには、財政が社会の連帯を支える役割を再確認し、「負担と給付の公正さ」という当たり前の原点に立ち返ることが重要です。
「責任ある積極財政」は単なる支出拡大ではなく、社会の安心を支える基盤づくりです。自助と連帯の中庸を取り戻し、分断ではなく連帯を育む財政のあり方を選び取れるかどうかが、日本社会の持続性を左右します。
出典
・日本経済新聞「排外主義とポピュリズムの広がりと積極財政」(2025年11月25日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

