士業がSNSやインターネットで情報発信を行う機会は年々増えています。しかし、広告規制には明確な禁止事項がある一方で、表現の工夫次第で印象が大きく変わる「グレーゾーン」も存在します。
第2回では、士業広告における境界線がどこにあるのか、依頼者の視点から見て誤解を招きやすい表現にはどんな特徴があるのかを整理します。
1 士業広告には「明確な禁止事項」と「判断が分かれる表現」がある
弁護士、司法書士、税理士などの士業には、それぞれの法律や会則で広告規制があります。“虚偽”“誤解を与える”“品位を欠く”といった表現は共通して禁止されています。
しかし実務では、以下のように判断が分かれる表現が多くあります。
- 成果を強調する文言(「必ず取り戻せます」「圧倒的に有利にします」など)
- 他事務所との比較(「地域最安」「他の事務所より安心」など)
- 利用者の感情に訴える表現(「今動かないと取り返しがつきません」など)
完全にアウトとは言えないものの、依頼者に過度の期待や不安を与える可能性があるため「グレーゾーン」に位置づけられます。
2 グレーゾーンが生まれる理由
士業広告にグレーゾーンが多い理由は2つあります。
① 専門サービスの成果は個別事情で大きく変わる
士業の仕事は、同じ案件でも状況次第で結果が変わります。
そのため「成功しやすい」「節税できます」などの一般化された表現は、依頼者に誤解を与えるおそれがあります。
② SNSでは「短い言葉」が求められる
SNSの世界では、専門性よりもインパクトが重視されやすく、短い文言で効果を示す必要が出てきます。その結果、本来であれば丁寧に説明が必要な内容を簡略化して、結果として誤解を招くケースが増えています。
3 よく見かける「境界線スレスレ」の広告表現
アンケート結果では、士業広告に対して「うさんくさい」と感じた人が84人に上りました。この背景には、以下のような表現の増加があります。
- 「最短◯日で解決」
→案件ごとに必要期間が異なるため誤解を招きやすい - 「相談すれば必ず損をしません」
→「必ず」は特にリスクが高い言葉 - 「成功率◯%」
→分母や算定方法が明確でないケースが多い - 「多くの人が選んでいます」
→“多い”の基準が曖昧
これらの表現は完全に禁止されているわけではありませんが、情報の出し方によっては「誇大広告」と見なされる可能性があります。
4 専門家として守りたい「誠実性」の基準
士業広告で最も重要なのは「専門家として誠実であるか」という視点です。
例えば以下のような姿勢は、今後さらに重視されると考えられます。
- 結果を保証するような表現を避ける
- 不安を煽る手法を使わない
- 実績の数字は算出根拠を明示する
- 専門性よりも誠実性を優先する
- 依頼者にとって誤解の余地がない表現に整える
情報発信が自由になった時代だからこそ、専門家には一段高い倫理基準が求められています。
結論
士業広告の「グレーゾーン」は、依頼者の理解不足やSNS特有の表現との相性から生まれやすい領域です。禁止事項を守るのは当然ですが、依頼者の誤解につながらないかどうかを常に意識した情報発信が求められます。
第1回で触れたとおり、士業広告に対する一般消費者の厳しい視線は強まっています。だからこそ、専門家として誠実で透明性の高い広告を心掛けることが、結果的に信頼の獲得につながります。
次回は、実務で使える「適正広告のチェックリスト」と「SNS運用の留意点」を整理します。
出典
・日本経済新聞(2025年11月24日付)
・士業広告に関するアンケート(士業適正広告推進協議会)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
