日本の社会保障は、戦前に生まれた制度を戦後の荒廃から立て直し、皆保険・皆年金の体制を整えることで国民生活を大きく支えてきました。平均寿命の延びや乳幼児死亡率の低下など、私たちの生活水準の向上には社会保障の充実が深く関わっています。
しかし現在、高齢化の進展と少子化の深刻化により、社会保障は「不安を解消する仕組み」から、むしろ「将来への不安の要因」と捉えられつつあります。年金水準の低下議論や医療費負担の見直しが相次ぎ、制度の持続性が大きな課題となっています。
本稿では、社会保障の歴史をふまえつつ、制度を持続させる鍵となる「インデクセーション(indexation)」という考え方に注目し、その重要性を分かりやすく整理します。
1. 社会保障はどのように生活を支えてきたのか
日本の社会保障制度は、厚生年金や健康保険組合に端を発し、戦後の復興期に制度崩壊の危機に直面しました。その後、1961年に皆保険・皆年金が実現し、国民全員が医療と年金の基盤を持つ社会へと歩みを進めます。
社会保障の充実は国民の生活環境を大きく改善し、乳幼児期・高齢期の死亡率低下、長寿化の進展に大きく寄与してきました。もし社会保障がなければ、救える命が救えず、生活困窮者は今よりはるかに多かったと考えられます。
2. 社会保障給付の拡大と負担増
社会保障の給付は1970年時点で国民所得の6%未満でしたが、現在では30%を超える規模に拡大しています。給付の内訳を見ると、
- 年金(約4割)
- 医療(約3割)
- 介護(約1割)
が中心で、近年は少子化対策も急速に伸びています。
給付が増えれば負担も増えます。社会保障負担は70年の国民所得比5%から現在18%へ上昇し、税負担と合わせた国民負担率は24%から46%へと大幅に増加しました。
少子化と高齢化の進行を踏まえると、今後も給付と負担の双方が厳しくなることは避けられません。
3. 社会保障が「不安の源」になる構造
本来、社会保障は「不安の解消」のためにあります。しかし近年は、
- 基礎年金水準の低下
- 医療費の自己負担上限(高額療養費)の引き上げ議論
- 介護保険料の増加
などが続き、将来の生活設計に不安を覚える人が増えています。
制度の持続性が揺らぐと、将来の安心は確保されず、結果として現役世代の負担感が強まり、社会保障への信頼も低下してしまいます。
4. 持続可能性の鍵となる「インデクセーション」とは
社会保障制度の持続性を高めるには、給付水準や負担の調整ルールを経済状況に応じて自動的に行う「インデクセーション(indexation)」が重要です。
経済学の観点では、制度の評価は
- 経済成長(=少子化対策など)
- 配分の効率性(=無駄の削減)
- 公平性(=給付と負担の見直し)
が柱となりますが、これらを適切に機能させるためにも、制度の自動調整メカニズムが欠かせません。
日本の年金ではすでに「マクロ経済スライド」と呼ばれる調整が導入され、物価・賃金の変動に合わせて給付水準を調整する仕組みが動いています。今後は医療や介護、子育て支援など、より広い分野で調整ルールを組み込むことが求められます。
インデクセーションは、社会保障を「政治的な判断」から切り離し、透明性の高い制度へ改善することで、国民の理解と信頼を高める役割も果たします。
結論
日本の社会保障は、戦後の混乱期から国民生活を支え続け、寿命の延びや生活水準の向上に大きく貢献してきました。しかし、少子高齢化の加速する中で、給付と負担のバランスはかつてないほど厳しくなっています。
社会保障をこれからも確実に維持していくためには、単なる給付削減や負担増といった議論だけでなく、制度の持続性を高める「インデクセーション」という視点が重要です。経済状況に応じて透明性のある調整を行うことで、制度への信頼を確保しながら、将来にわたり国民の安心を支える仕組みを築くことができます。
出典
日本経済新聞「社会保障の持続性を高めるインデクセーション」ほか
厚生労働省・総務省資料 等
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

