高市早苗内閣が21.3兆円規模の総合経済対策を閣議決定しました。
日経平均株価が最高値圏で推移する中での大規模財政出動は、規模・タイミングともに異例です。物価高対応、成長投資、防衛力強化という3本柱を掲げていますが、果たして「責任ある積極財政」と言えるのか。そして、日本経済が本来目指すべき「民間主導の成長」に向かう契機となるのかが問われています。
この記事では、今回の経済対策の狙いと課題をわかりやすく整理し、「本当に必要な政策は何か」という視点から考察します。
1 21.3兆円の経済対策はなぜ「異例」なのか
今回の総合経済対策は、政府・与党間で議論されてきた「物価高対応」を中心に編成されています。しかし、その規模はリーマン・ショック後(09年度)や震災後(11年度)を上回る水準で、経済の現状と比べても大きすぎるとの指摘があります。
- 2025年度補正予算案(一般会計歳出):17.7兆円
- 対策の総額:21.3兆円
物価安定目標(前年比2%)を3年半上回る状況の下で、追加の財政需要を盛り込めば、むしろ物価上昇圧力を高める可能性もあります。財政規模が大きくなりやすい背景には、少数与党という政権基盤の弱さもあるとみられています。
2 物価高対策は本当に効果的か
今回の対策では、以下の施策が目立ちます。
- 電気・ガス料金の補助
- 食料品向け電子クーポンや「おこめ券」
- 子ども1人あたり2万円給付(所得制限なし)
しかし、これらは「家計支援」よりも「総需要押し上げ」につながる色彩が強く、物価高の根本原因(供給制約・円安・人手不足)への対応としては不十分です。
とくに以下の点が問題視されています。
- クーポン類は需要増に直結し、物価を押し上げる可能性
- 自治体の裁量に委ねられ、支援が薄く広く配られがち
- 電気・ガス補助は市場価格をゆがめ、脱炭素の流れに逆行
生活支援は必要である一方、支援対象を低所得層に絞るなど、政策の精度が求められています。
3 「強い経済」をめざす投資は十分か
対策の第2の柱は成長投資で、政府はAI・半導体・量子技術・造船など17分野への重点的な支援を打ち出しています。特に造船産業支援では、10年間の基金が目玉施策となっています。
本来、成長投資の主役は民間企業です。政府が担うべきは以下のような役割です。
- 民間の内部留保・現預金などの投資余力を引き出す仕組みづくり
- 若手研究者への科研費支援など、研究環境の向上
- 企業の研究開発を後押しする税制整備
イノベーションを促す環境を整えることこそ、中長期の日本経済を強くするために欠かせない視点です。
4 財政の持続可能性は確保できるか
最も大きな懸念は、財政規律の緩みです。
首相は「政府債務残高のGDP比引き下げ」を掲げていますが、基礎的財政収支(PB)の黒字化目標は維持するのか曖昧なままです。経済学者への調査でも、
- PB黒字化の柔軟化は「適切でない」:54%
という結果が示されています。
円安と長期金利の上昇が続いていることも、財政運営への信認が揺らいでいるサインといえます。インフレを利用した「実質的な借金の軽減」は、将来世代への負担先送りにほかなりません。
5 「民間が先頭に立つ経済」に戻すためには
今回の対策は「政府が先頭に立つ」と打ち出していますが、日本経済の7割を占めるのは民間需要です。本来の姿に戻すには次の視点が欠かせません。
- 規制改革・資本市場改革の一段の強化
- 成長分野への大胆な人材・資本シフト
- 政府は環境整備に徹し、民間主体で投資・成長を促す仕組みづくり
- 社会保障制度の持続性確保による家計の安心感回復
政府が「従」の役割を明確にし、民間の投資意欲を引き出せるかが日本経済の復活の鍵になります。
結論
今回の21.3兆円の経済対策は、家計支援や成長投資を盛り込んだ大規模な内容となりました。しかし、規模の大きさに比べて政策の精度には課題が残ります。物価高が続く環境下での財政出動は、副作用としてインフレ圧力を高める可能性も否定できません。
本当に必要なのは、「政府が主役になる経済」ではなく、「民間が先頭に立つ成長モデル」を取り戻すことです。日本の潜在成長力を引き上げるには、財政依存ではなくイノベーションと民間投資を軸にした持続的な経済運営が欠かせません。
今回の対策がその方向性を後押しするのか。それとも財政膨張路線に再び傾くのか。
日本経済の未来を左右する重要な局面に差し掛かっているといえます。
出典
・日本経済新聞「民間が先頭の経済に戻せる対策か」(2025年11月23日)
・政府発表資料、各種統計をもとに整理
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
