REIT市場は誕生から20年以上が経過し、日本の投資インフラとして大きく成長してきました。2020年代後半に向けて、人口動態・金利環境・働き方の変化・インバウンド需要・物流再編など、REITに影響を与える構造要因が大きく動き始めています。
本記事では、2025〜2030年を見据えて、REIT市場がどのように変わり、どのセクターが伸び、どのセクターが構造的な課題を抱えるのかを中立的に整理します。
● これからのREIT市場を決める「5つの構造要因」
REIT市場の将来を考えるうえで、次の5つの大きな要因が欠かせません。
- ① 金利の行方と金融政策
- ② 人口動態・都市集中の継続
- ③ インバウンド需要の拡大と観光構造の変化
- ④ サプライチェーン再構築と物流需要
- ⑤ 都市再開発と働き方の進化
それぞれ詳しく見ていきます。
● ① 金利環境:REIT最大の“カギ”はここにある
REITの価値を大きく揺らすのが金利環境です。
今後5〜10年の日本は、
- 低金利は維持するが
- ゼロ金利から緩やかな引き上げが継続
といったシナリオが想定されています。
金利が緩やかに上がる局面では、
- 借入コスト上昇 → 分配金の圧迫
- 投資家の目線が利回りの高い資産へシフト
が起こり得ます。
とはいえ、日本は欧米ほど急激な利上げを行う可能性が低いため、REITが大きく崩れるリスクも限定的と見られます。
むしろ「金利が上がっても賃料が伸びるセクター」が強い時代に移行していきます。
● ② 人口動態:都市部マンションの需要は高止まり
日本全体としては人口減少が続くものの、都市部では“人口の一極集中”が続いています。
- 東京23区
- 大阪中央区・北区
- 名古屋の中心部
は、今後も単身世帯や若年層の流入が膨らむ見込みで、住宅REITにとっては安定需要が続きます。
住宅REITは、2030年に近づくほど“安定セクター”としての存在感が高まると見られます。
● ③ インバウンド拡大:ホテルREITは構造的に強気
日本の観光産業には、以下のような追い風があります。
- 円安による訪日客増加
- LCC拡充
- 国際イベント・ビジネス会議の誘致増加
- アジアの中間層増加(旅行需要の底上げ)
これらはホテル市場の構造を大きく変え、
“稼働率 × 客室単価” の組み合わせで収益が伸びやすい環境
が続く見込みです。
ホテルREITは景気敏感ですが、
- インバウンド
- 国内旅行回復
の二重の追い風を受けるため、今後10年は成長セクターとして注目されます。
● ④ 物流:供給減・インフレ連動契約で“第二成長期”へ
物流施設の建設費が高まり、新規供給が絞られる流れにあります。
- 2027年までに供給量は大幅減
- CPI連動契約の普及で賃料成長力が向上
- Eコマースだけでなく、企業の在庫戦略多様化でニーズ増加
これらにより、物流REITは2020年代後半に再び“内部成長型のセクター”へ進化すると見られ、分配金の安定と成長が期待されます。
● ⑤ 働き方の進化:オフィスは“二極化が前提”の時代へ
テレワーク拡大でオフィス不要論が語られた一方、
- 対面コミュニケーションの復活
- 若手育成
- イノベーション創出の場
としてオフィスの再評価が進んでいます。
ただしその中身は明確に二極化します。
■ 強いオフィス
- 都心一等地
- 大規模・高スペック
- 省エネ性能・BCP性能が高い
- 複合開発エリア(丸の内・渋谷など)
■ 苦戦するオフィス
- 築古
- 非効率な間取り
- 周辺競合が多い
2030年に向けては、“勝ち組物件を持つREIT”は強くなるが、その他は厳しくなるという構造です。
● セクター別:2025〜2030年の展望まとめ
| セクター | 将来展望 | 特徴 |
|---|---|---|
| 物流REIT | 成長(需給改善×インフレ連動) | 賃料成長が期待できる |
| 住宅REIT | 安定成長(都市人口の集中) | 稼働率安定、分配金も堅い |
| ホテルREIT | 高成長だが振れ幅大 | インバウンドで構造成長期 |
| オフィスREIT | 二極化進行 | 一等地は強いが周辺は苦戦 |
| 商業REIT | 地域型SCは安定、百貨店型は厳しい | テナント構成が鍵 |
● REIT市場全体としては「再編」と「大型化」が進む
2020年代後半には、以下の動きがさらに進むと予想されます。
- 同業種REITの合併(規模拡大)
- 海外不動産への投資拡大
- 物件の再生型投資(リノベーション・用途変更)
- ESG投資の強化(環境性能向上)
特にESG対応は避けられず、
- 省エネ
- 再エネ活用
- 災害対策
などに積極投資するREITが市場評価を高める可能性があります。
結論
2025〜2030年に向けて、REIT市場は「成長セクター」「安定セクター」「二極化セクター」に分かれていきます。
成長:物流・ホテル
安定:住宅
選別:オフィス・商業
という構図です。
REIT市場全体としては、
- インフレ時代に適応した賃料設計
- 規模拡大と再編
- ESG・省エネ対応の強化
などが成長のキーワードとなります。
長期投資家にとっては、
- NAV倍率
- 金利環境
- 賃料成長率
- セクターごとの構造的追い風
を冷静に見極めることで、REITの魅力をより強く活かすことができます。
出典
・国土交通省「不動産投資市場関連資料」
・観光庁「宿泊旅行統計」
・三鬼商事データ
・各種REIT決算資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
