REITは安定した分配金が魅力の資産ですが、当然ながら“リスクゼロ”ではありません。むしろ、株式や債券とは異なるタイプのリスクを持つため、これを理解しておくことが長期投資の成否を左右します。
特に、金利上昇・景気後退・不動産市況の変化はREITの収益や投資口価格に直接影響します。
今回は、REIT投資における主なリスクと、一般投資家が実践しやすいリスク管理の方法について整理します。
● REITが抱える代表的なリスクとは
REIT投資のリスクは、次の5つに大別されます。
- 金利上昇リスク
- 景気変動リスク
- 不動産固有のリスク
- 資本市場(株式市場)との連動リスク
- 外部ショック(災害・パンデミック等)リスク
それぞれ順番に整理します。
● ① 金利上昇リスク
REITが最も影響を受けやすいのが金利です。
理由は明確で、REITは不動産を取得する際に借入(デット)を積極的に活用するためです。
金利が上がると、
- 借入金利の上昇
- 既存借入の借り換えコストの上昇
- 分配金の目減り
- 他資産との相対的魅力低下(債券利回り上昇が競合)
これらが同時に起きる可能性があります。
■ 対策
- LTV(借入比率)が高すぎるREITは避ける
- 長期固定金利の比率が高いREITを選ぶ
- 金融市場が不安定な時期は増資リスクを意識
● ② 景気変動リスク
REITは不動産から収益を得るため、景気の動きと密接な関係があります。
ただし、影響の強さはセクターによって異なります。
| セクター | 景気敏感度 | 主な影響ポイント |
|---|---|---|
| ホテル | 非常に高い | 稼働率・ADRの変動 |
| オフィス | 高い | テナント退去・賃料改定 |
| 商業 | 中程度 | テナント売上・退去 |
| 物流 | 中程度〜低い | 需給バランス・長期契約 |
| 住宅 | 低い | 都市人口・更新賃料 |
景気後退時には稼働率が低下しやすいREITもあれば、住宅のように比較的安定するREITもあります。
■ 対策
- セクター分散(ホテルの比率を高くしすぎない)
- 立地や物件スペックが強いREITを中心に選ぶ
- テナントの分散状況(偏り)を確認する
● ③ 不動産固有のリスク
REITが保有する物件には、固有のリスクがあります。
- 競合施設の新規供給
- 古い物件の維持管理コスト
- テナントの倒産・撤退
- 開発遅延
- 地域の人口減少
特にオフィスや商業施設では、立地の違いが収益性に大きく影響します。
■ 対策
- 物件の分散(地域・用途)
- 稼働率の推移を確認
- 修繕計画が明確なREITを選ぶ
● ④ 資本市場との連動リスク
REITは上場しているため、株式市場と同じく投資家のセンチメント(心理)で価格が動きます。
- 金融ショック
- 投資家のリスク回避姿勢
- 急激な売りが出る相場
こうした要因で“本来の不動産価値とは関係なく”価格が下落することが起こり得ます。
■ 対策
- 基本は長期投資(短期の価格変動は想定内として扱う)
- NAV倍率や分配金の持続性を軸に判断する
- 市場急落時は好物件を安く拾う機会と考える
● ⑤ 外部ショック(災害・疫病等)リスク
自然災害やパンデミック、国際情勢など、予測が難しいショックも不動産市場に影響します。
- ホテルREITは特に影響を受けやすい
- 物流・住宅は比較的影響が小さい
- 商業施設は地域性により差が大きい
■ 対策
- 物件の地震リスク・浸水リスクを確認する
- 保険加入状況
- セクター分散でショック耐性を高める
● REIT投資の実践的なリスク管理
REIT投資を長く続けるうえで役立つポイントをまとめると次の通りです。
■ 1. セクター分散を徹底する
REITはセクターごとに景気敏感度が大きく異なるため、
- 住宅
- 物流
- オフィス
- 商業
- ホテル
をバランスよく組み合わせるだけで、リスクは大きく軽減されます。
■ 2. NAV倍率と分配金を軸に判断
- NAV倍率 → 割安/割高
- 分配金 → 収益の安定性
を重視することで、価格変動に左右されにくくなります。
■ 3. 金利環境を常にチェック
金利上昇局面では、
- LTVが高いREIT
- 短期借入比率が高いREIT
は影響を受けやすくなります。
■ 4. 市場急落時は「買い場」と捉える
REITは恐怖心理で売られやすい資産です。
急落時にNAV倍率が急低下している銘柄は、長期的に見れば割安になるケースが多くあります。
結論
REIT投資のリスクは、金利・景気・不動産市況・外部ショックなど多岐にわたります。しかし、これらは正しく理解すれば十分に対処できるものです。
特に、
- セクター分散
- NAV倍率・LTVの確認
- 金利動向のチェック
- 長期目線での投資
が最も重要になります。
REITは「安定したインカム資産」という特徴を持ちながら、一方で市場心理で大きく動く側面もあります。
だからこそ、リスク管理を理解しておくことで、より安心して投資を続けることができます。
次回の第10回では、2025〜2030年を見据えた「REIT市場の将来展望」について、人口動態・インフレ・再開発などの観点からまとめます。
出典
・不動産投資の教科書(国交省)
・REIT各社決算資料
・三鬼商事「オフィス市況データ」
・観光庁「宿泊旅行統計」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
