REIT投資に慣れてくると、必ず目にするのが「NAV倍率(Net Asset Value倍率)」という指標です。株式でいうPBR(株価純資産倍率)に相当し、REITが“割安なのか、割高なのか”を判断するうえで非常に重要です。
しかし、NAV倍率は「計算が複雑そう」「何を意味しているのか分かりにくい」という声も多く、初心者が躓きやすいポイントのひとつです。
今回は、NAV倍率の基本から実際の使い方まで、REIT投資に必ず役立つ知識として分かりやすく整理します。
● NAVとは何か?
NAV(Net Asset Value)は、日本語では「純資産価値」と呼ばれます。
REITが保有する不動産を時価で評価し、そこから負債(借入金など)を差し引いた、“実質的な1口あたりの価値” を示します。
計算式はシンプルです。
NAV =(不動産の時価 – 負債) ÷ 投資口数
REITは不動産を大量に保有するため、NAVはそのREITが持つ資産価値の“地図”となります。
● NAV倍率とは?
NAV倍率とは、
投資口価格(マーケット価格) ÷ NAV(不動産の純資産価値)
で求められます。
- 1倍未満 → 割安(市場価格が資産価値より低い)
- 1倍超 → 割高(市場がプレミアをつけている)
が基本的な見方です。
たとえば、
NAVが10万円なのに、市場価格が9万円なら「0.9倍」。
資産価値よりも安く購入できるため、割安と考えられます。
● NAV倍率が重要な理由
NAV倍率がREIT評価で最も重要な理由は、REITの成長モデルが「増資をして物件を増やす」という構造にあります。
■ NAV<1倍では“増資しにくい”
1口の価値が10万円なのに、9万円で増資をするとどうなるか。
→ 既存投資家にとって不利(価値の希薄化)
→ 市場からネガティブに評価される
→ 投資口価格が下がりやすい
つまり、NAV倍率が1倍未満だと、外部成長(物件取得)がしにくくなります。
■ NAV>1倍なら成長サイクルが回りやすい
逆に、1倍を超えるとどうなるか。
→ 市場価格が資産価値より高い
→ 増資して物件を買っても“価値の希薄化”が起きにくい
→ 規模拡大が評価される
→ 分配金が伸びやすくなる
つまり、NAV倍率が上がると成長しやすくなる のがREITの特徴です。
● NAV倍率をどう使うべきか
NAV倍率を見る際には、次の3つの視点が役立ちます。
① 「割安かどうか」を判断する
単純に1倍を下回っていれば割安の可能性があります。
ただし、割安である理由が「構造的なもの」なのか「一時的なもの」なのかを見極める必要があります。
- 景気の一時的な低迷
- 金利上昇
- テナント退去の一時増加
などによる割安なら、改善余地があります。
② 同じセクター内で比較する
REITはセクターごとに特徴が違うため、比較は同じ業種内で行うのが鉄則です。
たとえば、
- 物流REITのNAV倍率 → 全体的に0.9倍前後
- ホテルREIT → 変動賃料の伸び期待で1倍超になりやすい
- 住宅REIT → 安定性が高くNAV倍率がぶれにくい
- オフィスREIT → 景気敏感でNAV倍率の変動幅が大きい
セクターの平均を超えているかどうかも重要な判断材料になります。
③ NAV倍率の“変化”を見る
絶対値だけでなく、NAV倍率が
- 上昇しているのか
- 低下しているのか
という「トレンド」が非常に重要です。
NAV倍率上昇 → 市場が成長余力を評価している
NAV倍率低下 → 投資家が懸念している
物流REITの例では、0.9倍台から1倍を超えるかどうかが、“成長シナリオに戻るか”の分岐点とされています。
● NAV倍率は万能ではない。注意点も
NAV倍率は重要ですが、盲点もあります。
■ 時価評価の遅れ
不動産の時価は半年〜1年程度のズレがある場合があります。
■ 賃料改定が反映されるまでに時間差
特にオフィスや物流では賃料が徐々に変わるため、NAVにすぐ反映されません。
■ 金利上昇でNAVが低下する可能性
REIT全般ですが、金利上昇局面ではNAVが圧迫されることがあります。
NAV倍率は、あくまで“REIT全体の説明力が高い指標”であり、単独で判断するのではなく、
- LTV
- 分配金利回り
- 内部成長率
などと組み合わせて評価することが重要です。
結論
NAV倍率は、REITの割安・割高を判断するだけでなく、今後の成長可能性を見極めるうえでも欠かせない指標です。1倍を下回ると外部成長が難しくなり、1倍を超えると増資を伴う成長サイクルに入りやすくなります。
REIT投資では、
- NAVの水準
- 同業種比較
- NAV倍率のトレンド
を押さえることで、市場の評価や成長余力をより深く読み解けます。
次回の第8回では、REITの分配金がどのように作られ、「内部成長」「外部成長」がどのように影響するのかを丁寧に解説します。
出典
・REIT各社決算資料
・不動産鑑定評価報告書
・東京証券取引所「J-REIT市場データ」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
