物流REITは、コロナ禍のEC需要によって急成長した後、物件供給の増加や空室率の上昇により、やや停滞感が続いていました。しかし2024年後半から状況は変わり始め、物流REITに対して再び投資マネーが戻りつつあります。
背景には、供給減少による需給改善や、賃料のインフレ連動化といった構造的な変化があり、分配金の伸びを期待する声も高まっています。
本記事では、物流REITが再評価されている理由と、今後の注目ポイントを整理します。
● なぜ物流REITに資金が戻っているのか
物流REITは、オフィスやホテルなどのセクターに比べて出遅れていましたが、2024年10月以降は潮目が変わり始めました。東証REIT指数の用途別指数では、物流フォーカス指数が8カ月ぶりに月間トップの上昇率を記録しました。
主要な買い主体である地方銀行の間でも「物流REITの低迷は終わった」という声が増え、着実な買いが入っているとされています。
● 供給が大幅減へ:需給改善の見込み
物流REITの明確な追い風となっているのが、今後の供給減少です。
不動産仲介大手CBREによると、
- 首都圏の物流施設の供給は2027年に2024年比で75%減少
- 一方でテナント需要は45%減にとどまる
これにより、久々に需要超過の状態に転じる見込みです。
EC需要の拡大が落ち着いたとはいえ、企業の在庫保管ニーズや物流再編の動きは堅調で、入居需要は安定しています。供給が絞られることで、賃料改定余地が広がりやすい局面に入ります。
● インフレ対応契約(CPI連動)が普及
物流REITの弱点とされてきたのが “インフレに賃料が追いつきにくい” 点でした。
しかし、近年はこの点に大きな変化が起きています。
物流REIT大手のGLP投資法人では、
- CPI(消費者物価指数)連動型の賃料契約が6割超
- 2026年2月期には 8〜9%の賃料増 を見込む
この動きは他の物流REITにも広がりつつあり、インフレ局面でも収益が伸びやすくなる体制が整いつつあります。
「賃料増 → 分配金増」という流れが描きやすくなる点は、投資家にとって大きな魅力です。
● 物流REITの課題:NAV倍率の低さ
一方で、物流REITには依然として課題もあります。
それが NAV倍率(不動産の純資産価値に対する投資口価格の倍率)の低さ です。
- 物流REITのNAV倍率は0.9倍台前半(1倍未満)
- 割安に見えるが、この状態では増資がしにくい
REITは物件取得(外部成長)で規模を拡大しやすいですが、NAVが低いまま増資をすると、既存投資家にとって価値の希薄化が生じやすいため、成長ストーリーが描きにくくなります。
このため、
- 内部成長(賃料増)に注力
- 自己投資口の取得(買戻し)を実施
といった動きが見られます。
実際に、ラサールロジポート投資法人は
- 低利回り物件を売却し
- NAV0.9倍未満時は自己投資口の買い戻しを実施する方針
これを発表後、投資口価格は5%上昇しています。
● NAV倍率が1倍超へ:成長フェーズへの鍵
投資家から注目されているのが、NAV倍率が1倍を超えるかどうかです。
NAV倍率が1倍を超えれば、
- 増資による物件取得が評価されやすくなり
- 外部成長が再び軌道に乗る
つまり、物流REITの“次のステージ”に進むための目安になります。
絵姿:物流REITの収益力が高まる構造
物流REITは、次のような収益構造が強化されています。
- 供給減による需給改善 → 空室率低下・賃料押し上げ
- CPI連動契約の普及 → インフレ下での賃料成長
- 自己投資口買い → 投資口価値の下支え
- 内部成長の強化 → 安定的な分配金増加
短期的には出遅れ感の修正、中長期では構造的な成長要因があるため、投資家の注目度が再び高まっています。
結論
物流REITは、これまでの出遅れセクターから「再評価されるセクター」へと位置づけが変わりつつあります。供給減による需給改善、インフレ連動賃料の普及といったポジティブな要因が重なり、分配金の底上げにつながる可能性が高まっています。
一方で、NAV倍率が1倍未満と低位にあるため、外部成長は急がず、内部成長や自己投資口の買戻しで基盤を強化する動きが続くとみられます。
今後、NAV倍率が1倍を超えるかどうかが、物流REITが次の成長段階に入るための大きな鍵となります。
次回の第7回では、REIT分析で最も重要な指標のひとつである「NAV倍率の意味と使い方」について詳しく解説します。
出典
・日本経済新聞「物流REIT見直し買い 相場出遅れ感、地銀など物色」
・CBRE「物流施設市場レポート」
・REIT各社決算資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
