為替相場は「円安が進んでいる」「円高に振れやすい」といった短期的な動きが注目されがちですが、その背景には政策・金利・財政運営など複数の要因が重なっています。企業が想定為替レートを145円台へ引き上げた一方で、市場では日米金利差や日本の財政拡張、日銀の政策転換の可能性が議論されています。本稿では、円相場を動かす主要なメカニズムを整理し、政策や金利が将来の為替にどのような影響を与えるのかを分かりやすく解説します。
● 円相場を左右する「3つの力」
円相場は次の3つの力によって動きます。
- 日米金利差(ファンダメンタルズ)
- 金融政策(中央銀行のスタンス)
- 財政政策・財政規律への信頼(国の信用)
この3つが相互に作用し、円安・円高の方向性を形成します。
● (1)「日米金利差」:現代の為替を最も動かす力
2022〜2025年にかけての円安は、ほぼこの「金利差」が主因です。
○ 金利差が広がると円安に
- 米国が利上げ → 米国債の金利が上昇 → ドルが買われやすい
- 日本が低金利維持 → 円の魅力が相対的に低下 → 円が売られやすい
○ 金利差が縮小すると円高に振れやすい
たとえば、SUBARUの経営陣は想定レートを145円とした理由として「日米金利差の縮小の可能性」を挙げています。企業も金利差を重視していることが分かります。
● (2)「金融政策」:日銀の方針は円の方向性を左右する
円相場では、日本銀行の政策が大きく影響します。
○ 超低金利の維持 → 円安方向
○ 利上げや金融正常化 → 円高方向
特に市場が注目しているのは以下の点です。
- 物価2%の安定への道筋
- 賃金動向
- 国債買い入れペースの調整(YCC撤廃後の市場への影響)
- 日銀の政策金利の引き上げタイミング
日銀が利上げに舵を切れば、短期的には円高に振れやすくなります。
● (3)「財政政策・財政規律」:円の信認に関わる
企業が円安リスクを織り込む背景には、日本の財政運営に対する警戒感もあります。
○ 財政拡張が続くとどうなるか
- 国債発行が増える
- 国債価格が下落・長期金利が上昇(市場がリスクを織り込む)
- 円の信認が相対的に低下 → 円安圧力に
特に2025年前後は補正予算の規模が大きく、市場が財政リスクを意識しやすい局面にあります。
○ 財政再建や規律強化 → 円の信認が上がり円高要因に
金融政策よりも「市場の信頼」に関わるため、中長期的な影響が大きい領域です。
● 円相場はこの3つが「同時に」作用する
円相場は単一の要因では決まりません。
たとえば、
- 金利差は縮小しそうだが、財政リスクが意識される
- 日銀が利上げを検討しているが、米国も当面は高金利を維持しそう
- 財政拡張の懸念があるが、企業収益は円安メリットで強い
といった複雑な力が組み合わさり、為替はしばしば市場予想と異なる動きを見せます。
だからこそ、企業も145円台と「保守的な想定レート」を採用しているのです。
● 投資家・家計が理解しておくべきポイント
政策や金利の影響を踏まえると、次の点がとても重要です。
(1)円安は永続しない可能性がある
日米金利差が縮小すれば、円高方向に動く可能性は十分あります。
(2)円高に強い企業・円安に強い企業を見分ける
第3回で整理したように、企業の構造が選別のカギです。
(3)外貨資産は割合を決めて長期で持つ
円高・円安のどちらにも対応できる「通貨分散」が家計防衛になります。
(4)金利政策の議論は今後も重要テーマ
- 日銀の利上げタイミング
- 米国の利下げ開始時期
- 財政規律への市場評価
こうした情報は円相場を左右します。
為替の短期予測は困難ですが、円相場の「方向性」を理解しておくことで、投資や家計判断の精度は大きく向上します。
結論
円相場は、日米金利差、中央銀行の金融政策、財政運営への信頼という3つの力によって動きます。円安局面が続く背景には、米国の高金利、日本の低金利、財政拡張に対する市場の警戒が重なっています。一方で、日銀の金融正常化や米国の利下げが進めば、円高方向へ反転する可能性もあります。為替を短期的に予測することは難しくても、その背後にある「政策と金利の構造」を理解しておくことで、より合理的な投資判断・家計管理が可能になります。
出典
日本経済新聞「想定為替レート、企業145円」(2025年11月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
