円安が進むなか、株式市場では「どの企業が恩恵を受け、どの企業が打撃を受けるのか」に注目が集まっています。上場企業の想定為替レートが145円台へ引き上げられたことで、投資家にとって為替リスクを前提とした企業選別はより重要になりました。第3回では、円安局面における企業選びの視点を整理し、投資判断に使える実務的なポイントを解説します。
● まず把握したい「為替感応度」という視点
円安の恩恵は企業によって大きく異なります。その差を測る基本が「為替感応度」です。
- 1円円安で経常利益が何%動くか
- 輸出企業か、輸入企業か
- 外貨建て売上がどの地域に多いか
たとえば、大和証券の試算によれば、主要企業の経常利益は「1円円安で0.3%増加」とされます。ただしこれは平均であり、企業ごとの差は大きいことに注意が必要です。
● (1)輸出企業の中でも「勝ち筋」は変わっている
自動車・機械・電子部品などの輸出企業は伝統的に円安メリットが大きいとされます。しかし、近年は構造が変化しています。
○ 海外生産比率の高い企業はメリットが薄まる
以前より円安の恩恵は小さくなり、為替想定を保守的に置く傾向が強まっています。
○ 売上の「通貨構成」も大事
北米向け売上比率が大きい企業はドルベース収益が増えやすく、円安の恩恵を受けやすい一方、アジア・欧州比率が高い企業は通貨ごとの影響が分散します。
○ 想定為替レートの変化は企業スタンスのヒント
- 京セラ:135円 → 145円
- 第一三共:140円 → 148円
- キッコーマン:約148円
- コマツ:135円 → 143.2円
想定レートを積極的に円安方向へ調整している企業は、足元の環境に敏感に対応していると言える場面があります。
● (2)輸入企業は「価格転嫁力」で選別する
円安逆風の典型は輸入型ビジネスですが、その中でも企業の強さには差があります。
○ 価格転嫁力がある企業は耐性が強い
- 値上げがしやすい
- ブランド力がある
- 代替品が少ない
こうした企業は円安でも利益を守りやすい傾向があります。
○ ニトリHDのような「耐久消費財」企業は注視
1円円安で経常利益20億円減という大きな影響を受ける企業もあります。今期は147円台で為替予約して影響を抑えていますが、来期以降の円安が続く場合は利益圧迫懸念が高まります。
● (3)企業のヘッジ方針は投資判断の重要ポイント
為替予約・先物取引など、各企業は「為替リスクをどれだけ避けているか」を開示しています。
- ANAのように燃料費の為替影響を抑える企業
- 輸入型企業でリスクヘッジの方針を明確にするケース
- 輸出企業でも、為替水準が高すぎると海外投資を検討するケース
SUBARUは「日米金利差の縮小を考慮し145円」という想定を示し、為替変動を踏まえた海外投資判断を行う姿勢を示しました。こうした経営姿勢は投資家にとって重要な判断材料です。
● (4)財務体質・利益率は円安局面ほど差が出る
円安の追い風があっても、もともと利益率の低い企業は業績改善が限定的です。
見るべきポイントは以下です。
- 営業利益率の高さ
- ROE・ROAの改善傾向
- 有利子負債の水準
- 在庫の回転速度
円安メリットが出ているかどうかだけでなく、「そもそも強い企業か」を重視するのが実務的です。
● (5)為替だけで判断しない:中長期では逆転もあり得る
投資では「目先の円安メリット」だけで判断するのは危険です。
円安局面は永続しない可能性があり、日銀の政策転換・財政運営の変化・米国の金利動向で円高方向に振れる可能性もあります。
だからこそ、
- 為替に頼らず利益成長できる企業
- 価格転嫁力と国際競争力を持つ企業
- ヘッジ方針が明確な企業
を優先することが、中長期投資では合理的といえます。
結論
円安局面での企業選びは、「為替感応度が高い企業を探す」ことだけではありません。海外生産比率、価格転嫁力、ヘッジ方針、財務健全性など、複合的な視点が必要です。想定為替レートの変更や企業のコメントから経営のスタンスを読み取ることも重要です。短期的な為替メリットに左右されず、中長期で継続的に利益を生み出せる企業を見極めることで、為替変動の大きい環境でも安定した投資判断が可能になります。
出典
日本経済新聞「想定為替レート、企業145円」(2025年11月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
