株主総会はどう変わるのか 事前採決制度の検討と株主提案権見直しのポイント

税理士
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企業のガバナンスに欠かせない株主総会ですが、その運営は企業にとって大きな負担になってきました。こうした状況を受け、法相の諮問機関である法制審議会は、株主総会の決議方法や株主提案権に関する制度見直しの検討を進めています。特に注目されるのが「総会前の事前採決」という新しい仕組みです。本稿では、現在議論されている制度改正案のポイントを整理し、企業側と株主側の視点から、その影響をわかりやすく解説します。

1. 総会前の「事前採決」案とは

現行の会社法では、書面・オンラインで賛否が事前に提出されていても、株主総会での正式な決議が必要です。本来ならば総会前に議決が確定しているにもかかわらず、最終決議のために総会を開催しなくてはならない仕組みになっています。

一方で、株主全員の同意があれば事前投票のみで決議できる制度はあるものの、上場企業のように株主数が多いケースでは事実上適用できません。

今回検討されているのは、総会前の多数意思に基づき、議案を正式に成立させる制度を認めるかどうかという点です。

企業側からは、事前採決を認めることで準備負担が大きく軽減されるという声が上がっています。総会当日は想定問答や動議のシナリオ作成など、多大な労力が必要であり、説明義務違反などがあれば決議取消事由にもなり得ます。

2. 事前採決のメリットとリスク

<メリット>

  • 企業の準備負担が減る
  • 決議の成立可否が早期に確定する
  • 総会運営の効率化につながる

総会当日の議論が決議結果に大きな影響を与えないケースも多く、出席株主の議決権割合が数%にとどまる企業もあります。こうした実態を踏まえると、事前採決の合理性は一定程度あります。

<リスク・論点>

しかし一方で、株主の権利保護の観点から慎重な意見もあります。

  • 総会当日の議論を踏まえて投票したい株主の権利を損なう可能性
  • 他の株主の動向を見たいというニーズに応えられない
  • 株主間の連帯行為(議案に対する共同の意思形成)を妨げるおそれ

このため、完全な事前採決制度ではなく、現行制度を維持しつつ決議取消事由の要件を緩和する案も出ています。

3. 株主提案権の要件見直し

今回の議論では、株主提案権の要件の見直しもテーマになっています。

現行の要件は以下のとおりです。

  • 総議決権の1%以上、または
  • 議決権300個以上を6カ月以上保有

これは1981年に制度ができた当初からほぼ変わっておらず、株式分割や投資単位引き下げにより、300個の議決権を持つための必要投資額が大幅に下がっています。

その結果、少ないコストで強い権限を行使できる状態になっているとの指摘があります。

今回の見直し案(たたき台)

(1) 議決権数の要件廃止
(2) 議決権300個以上の水準引き上げ

企業側からは、「経営と無関係な提案が増え、審査コストが大きい」という意見もあります。
一方、少数株主の権利行使の機会が狭まることへの懸念も根強く、要件引き上げ幅や、定款変更の必要性など、慎重に検討されています。

4. ガバナンスの観点から見る制度改正の意義

専門家からは次のような指摘が上がっています。

  • 総会の儀式化を防ぎ、自由な議論を促す可能性がある
  • 株主と企業の争いがない場合には制度として合理的
  • ただし株主の投票行動・連帯権を損なってはならない

企業側と株主側で情報格差が生まれやすい点も踏まえ、制度運用には企業の説明責任や透明性の確保が不可欠です。


結論

株主総会を巡る制度は、企業の負担軽減と株主の権利保護のバランスをどうとるかが核心となります。事前採決制度は総会運営の効率化というメリットを持つ一方、株主の議論参加や意思形成への影響を伴います。また、株主提案権の要件見直しも、強い権限と必要投資額のバランスをどの水準に置くかが問われています。

今後の制度改革は、企業ガバナンスの姿勢がより厳しく問われる流れといえます。2025年度内の中間試案、そして2026年度の会社法改正に向けて、議論の行方を注視していく必要があります。


出典

・日本経済新聞「株主総会前、決議可能に」2025年11月20日
(記事内容を参考に執筆)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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