近ごろ「スイスフランが連日で過去最高値」というニュースが相次いでいます。ユーロや円に対して強さを維持し、当局が為替介入をしても勢いは衰えません。かつては円もスイスフランと並ぶ「安全通貨」と呼ばれてきましたが、今は状況が大きく異なります。
本稿では、なぜスイスフランがここまで買われるのか、そして円は再び安全資産としての信認を取り戻せるのかについて、最新の経済状況を踏まえてわかりやすく整理します。
1. スイスフランはなぜ「買われている」のか
スイスフランはユーロや円に対して連日で歴史的な高値をつけています。FX市場でもフラン買いの動きが強く、1スイスフラン=195円台を突破し、200円に迫る場面もありました。
背景には、世界的な「安全資産志向」の高まりがあります。
株価調整の不安、AI関連の過熱感、欧米経済の停滞など、投資家がリスクを避けたい局面では、通貨としての安定性が評価されやすくなります。
その一方で、スイスの経済自体は絶好調ではない
・GDPは7〜9月期が前期比0.5%減
・政策金利は2024年3月から利下げスタート
・2025年6月にはゼロ金利へ到達
本来であれば、利下げは通貨安要因です。しかし市場は「名目金利」ではなく「実質金利(=金利−インフレ率)」に注目し、
- スイス:実質金利はマイナス0.2%程度
- 日本:マイナス2.4%
という差が嫌気されています。
「日本の実質金利の深いマイナス」が、円売りにつながっているという指摘が多くみられます。
2. スイスの構造的な強さ
スイスフランを強く支えているのは、短期的な金利ではなく「国の基礎体力の強さ」です。
(1) 恒常的な貿易黒字
スイスは20年以上に渡り貿易黒字が続き、2024年には黒字額が過去最高に。輸出企業が外貨を自国通貨に換えるため、フラン需要が高まりやすい構造にあります。
(2) 高付加価値産業の存在
医薬品・精密機器・高級時計など、価格に左右されづらい輸出品が多い国です。
フラン高でも売れ続けるため、通貨高の悪影響をほとんど受けません。
(3) 財政の圧倒的健全性
政府純債務残高(GDP比)は
- スイス:17%(先進国で最も低水準)
- 日本:134%
「信用度の高さ」は通貨価値を支える重要な基盤です。
3. 円が弱いのはなぜか
かつて円は世界的なリスクオフ局面で買われる「安全通貨」でした。
しかし現在は、
- 実質金利の大幅なマイナス
- 財政赤字の継続
- 貿易収支の赤字基調
- 人口減と国内市場縮小
- 政策の将来予見性への不透明感
などの要因が累積し、「円の信認」が揺らいでいます。
また、円安による輸入物価上昇がインフレにつながり、生活者にも影響が及んでいます。
4. 円は「安全通貨」に戻れるのか
ポイントを握るのは、日本の実体経済を押し上げる成長戦略です。
高市政権はAI、防衛、半導体など17分野を戦略領域に指定し、積極財政で成長の起爆剤とする方針を示しています。
市場の見方は次のとおりです。
- 成長が実を結べば円の信認回復につながる
- ただし政策効果が現れるまで数年かかる
- その間は円安圧力が続く可能性がある
つまり、「短期は円安・中長期は円復活の余地」という構図です。
日本経済の潜在成長率が高まり、財政の持続性に対する信認が戻れば、円が再び安全資産として評価される可能性は十分あります。
結論
スイスフラン高の背景には、
- 安全資産としての評価
- 実質金利の相対的な高さ
- 貿易黒字や産業競争力による構造的な強さ
- 財政の健全性
といった要因が揃っています。
一方で円は、実質金利の低さや財政・貿易構造の弱点が注目され、「かつての安全通貨」の地位が揺らいでいます。
しかし日本が長期的な成長戦略を実行し、財政の信頼性を取り戻し、産業競争力を高めていけば、円が再び安全資産として国際市場で存在感を発揮する可能性は残されています。
今後の為替動向は、単なる金利差だけではなく、各国の「経済の基礎体力」がより厳しく問われる時代に入っているといえます。
出典
・日本経済新聞「スイスフラン『安全通貨』独走」(2025年11月19日紙面)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

