政府は、株式の配当金や投資信託の分配金、債券の利子などの金融所得を高齢者の医療保険料に反映させる制度を、2020年代後半に導入する方針です。
これまで確定申告をしなければ金融所得は保険料に反映されず、負担が軽くなるケースがありましたが、「不公平だ」という声が長年続いていました。
今回の見直しにより、金融資産の多い高齢者は負担が増える可能性があり、逆に現役世代は将来的に負担が抑えられることが期待されています。
この記事では、制度がどう変わるのか、家計への影響は何なのかを一般の方向けに整理します。
1. なぜ制度が変わるのか
現在、医療保険や介護保険の保険料は「所得の額」に応じて決まります。
ただし、金融所得(配当金・利子・売却益など)は確定申告をしなければ自治体が把握できないという問題がありました。
その結果、同じ金融所得でも、
- 申告しない人は保険料が安いまま
- 申告する人は正しく反映され負担が増える
という不公平が生まれていました。
例えば、75歳以上の高齢者で年間500万円の配当がある場合、
- 申告なし → 年約1万5千円の保険料
- 申告あり → 年約52万円の保険料(約35倍)
という極端な差が出てしまいます。
政府はこの「申告次第で負担が変わる」構造を是正するため、制度を見直します。
2. どのように変わるのか
制度改正の方向性は次の通りです。
- 証券会社がつくる「税務調書」をデジタル化して一元管理
- マイナンバーと連携し、金融所得を自動で把握
- まずは 75歳以上(後期高齢者医療制度) から反映
- 今後は国民健康保険や介護保険にも広げる方向
- NISA口座の非課税運用は対象外
- 会社員の健康保険は対象外(給与で保険料が決まるため)
これにより、確定申告の有無に関係なく、金融所得が自動的に保険料へ反映される仕組みが整います。
3. 高齢者の家計への影響
(1)保険料・医療費の自己負担が上がる可能性
金融所得が多い高齢者は、保険料が増える可能性があります。
また、後期高齢者医療制度では、所得に応じて窓口負担が1割→3割に上がるケースもあり、医療費の実質負担が増える場合があります。
(2)配当金中心の運用は負担が増えやすい
- 高配当株や債券利子は、そのまま所得として保険料に反映される
- 投資の仕方によっては保険料への影響が大きくなる可能性
必要に応じて、運用スタイルの見直しも検討しておきたいところです。
4. 現役世代(働く世代)への影響
後期高齢者医療制度は、医療費の約4割を現役世代の保険料で支えています。
金融資産を多く持つ高齢者の負担が増えることで、現役世代の保険料負担の増加が抑えられる効果が期待されます。
子育て世帯や働き盛り世代にとっては、社会保険料の将来の負担が少しでも抑えられる観点で注目される制度です。
5. NISAが対象外という大きなポイント
今回の制度改正では、NISA口座で運用している金融所得は保険料の算定対象外となります。
そのため、
- 老後の資産運用でもNISAは有利
- 配当や利子ではなく「値上がり益」中心の運用は保険料への影響が少ない
という特徴があります。
高齢者にとっても、NISAの重要度はますます高まります。
6. 一般の人が今からできること
■ 高齢者の方
- 配当収入が多い場合は保険料負担が増える可能性がある
- 運用スタイルを見直すタイミングとして活用できる
- 医療費の自己負担が増える可能性を考え、家計管理を見直す
■ 親の資産管理をしている世帯
- 親の資産状況が医療費や保険料に影響する可能性が高まる
- 成年後見制度や家族信託などと関連して、見直しの必要が出てくる場合も
■ 現役世代
- NISAを中心とした長期運用がより重要
- 将来の社会保険料が抑えられる期待がある
- 親世帯の資産状況を把握しておくメリットが高まる
結論
今回の制度改正は、「所得に応じて公平に負担する」という方向性を明確にするものです。
高齢者の金融所得が自動的に保険料に反映されることで、負担が増える可能性もありますが、現役世代にとっては将来の社会保険料が抑えられる効果も期待できます。
制度開始までまだ数年ありますが、
- 運用の仕方
- 医療費負担の見通し
- 親子世帯の資産状況の把握
など、早めの準備が安心につながります。
家計全体で長期的な視点を持ち、今回の制度改正を前向きに活かしていただければと思います。
出典
・日本経済新聞「高齢者の金融所得、保険料に反映」
・日本経済新聞「金融所得 利子・配当、高齢層が過半」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

