政府は、株式の配当金や投資信託の分配金などの金融所得を高齢者の医療保険料に反映する方針を固めました。
従来は、確定申告をしなければ金融所得が保険料に反映されず、負担が軽くなるケースがありましたが、この“ひずみ”が長年問題視されてきました。
今回の制度改革は、「所得のある人が能力に応じて負担する」という応能負担の考え方を徹底し、現役世代の負担軽減につなげる目的があります。
本記事では、その背景と仕組み、家計や老後資金の考え方への影響を整理していきます。
1. なぜ金融所得が保険料に反映されるのか
現在、高齢者の医療・介護保険料は給与や年金などの“申告ベースの所得”に応じて決まります。
ところが、株式配当や債券利子といった金融所得は、確定申告をしなければ自治体が把握できないため、保険料の計算から漏れていました。
その結果、同じ500万円の配当収入がある75歳以上の高齢者でも、
- 申告しない場合:年約1万5千円の保険料
- 申告する場合:年約52万円の保険料(約35倍)
という大きな差が生じ、制度の不公平さが指摘されていました。
金融所得の多くは高齢層に集中しており、2019年の統計では65歳以上が金融所得全体の63%を占めるなど、政策的にも見逃せない状況でした。
2. 制度改正のポイント
政府が示した改革の方向性は次の通りです。
- 専用データベース(法定調書データベース・仮称)を構築して金融所得を把握
- 証券会社などの税務調書をデジタル化し、マイナンバーと連携
- まずは75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」から開始
- 自営業者らが加入する国民健康保険・介護保険にも拡大検討
- NISA口座での運用益は対象外
- 会社員の健康保険は対象外(給与で保険料額が確定するため)
スタートは2020年代後半が見込まれ、2025年度中に法整備を進め、2026年の通常国会で関連法改正案が提出される予定です。
3. 高齢者にとっては「負担増」、現役世代には「仕送りの抑制」に
後期高齢者医療制度では、医療費の4割を現役世代の保険料が支えています。
金融資産を多く持つ高齢者が能力に応じて負担すれば、現役世代からの“仕送り負担”を抑える効果が期待できます。
一方で、金融資産を多く保有し、配当や利子収入がある高齢者には負担増となるため、老後の資金管理や資産運用の計画を見直す必要が出てきます。
4. 家計への影響:高齢者・現役世代・資産形成の視点から整理
(1)高齢者の視点:負担増への備えが必要
- 毎年の配当金がそのまま医療保険料に反映される可能性
- 1割負担→3割負担へ上がるケースもあり、医療費の実負担が増える可能性
- 配当重視の投資から、必要に応じて運用スタイルの見直しも検討
(2)現役世代の視点:将来の社会保険料抑制につながる可能性
- 「仕送り」の構造が和らぎ、長期的には現役世代の負担軽減が期待される
- 子育て世帯・働き盛り世代にとってはプラス材料となりうる
(3)資産形成の視点:NISAが対象外という重要ポイント
- 非課税運用のNISAは保険料算定の対象外
- 長期投資の軸としてNISAの重要性がさらに高まる
- 老後もNISA口座を積極的に活用するメリットが明確に
5. 今後の注意点と実務的ポイント
制度開始は2020年代後半とされていますが、早めの準備が重要です。
- 配当・利子中心の運用は保険料増の影響を受けやすい
- 特定口座年間取引報告書・支払調書のデジタル管理が一層重要に
- 確定申告の有無による有利・不利の判断が不要になる可能性
- 制度設計次第で、資産管理会社や家族名義口座の扱いも変わる可能性
税制改正・社会保障制度改正は連動するため、毎年の動向の把握が欠かせません。
結論
今回の金融所得の保険料反映は、「所得の多い人が応分に負担する」という方向性を明確にした改革です。
高齢者の負担は増える一方で、現役世代の社会保険料の抑制につながる可能性があります。
個々の家計にとっては、
- 運用スタイルの見直し
- 医療費負担増への備え
- NISAを軸とした長期資産形成
など、将来を見据えた対策が重要になります。
制度開始までに数年の猶予がありますが、情報を早めに整理し、家計の見直しに活かしていただければと思います。
出典
・日本経済新聞「高齢者の金融所得、保険料に反映」
・日本経済新聞「金融所得 利子・配当、高齢層が過半」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

