脱炭素が資源価格を押し上げる構造—“新時代の石油”はどれか?(第1回)

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脱炭素社会への移行が世界規模で進むなか、資源価格が大きく動き始めています。特に銅・リチウム・ニッケル・レアアースなどは、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)を支える重要素材として需要が急増し、「脱炭素時代の戦略資源」とも呼ばれるようになりました。
資源価格の上昇は、企業の調達コストを押し上げるだけでなく、最終製品の値上げや家計負担にも直結します。本稿では、脱炭素がなぜ資源価格を押し上げるのか、その“構造”を分かりやすく整理します。

1. なぜ「脱炭素=省エネ」ではなく「素材の大量消費」なのか

脱炭素と聞くと、エネルギー効率化やCO₂削減などの“省エネ”イメージがあります。しかし実際には、脱炭素の主役は 電化と再生可能エネルギーへのシフト です。

再エネ発電設備、送電網、蓄電池、電気自動車など、新たなインフラづくりには大量の金属素材が必要です。
結果として、脱炭素の進展が資源需要を増やすという「逆説」が生まれています。

主な素材と用途

  • :送電網、EVモーター、データセンター
  • リチウム:蓄電池(EV・定置型)
  • ニッケル:高性能バッテリー
  • レアアース:風力発電の大型マグネットなど

脱炭素は、金属素材の消費拡大を伴う“素材を使う改革”でもあるのです。


2. 価格が上昇しやすい“構造”は3つある

脱炭素は、金属資源を取り巻く環境を以下の3つの方向から押し上げています。


(1)需要が階段状に増える

脱炭素の制度は、国境を超えて足並みをそろえて進みます(EU、米国、日本、中国)。
特に次の領域で需要が急増しています。

  • EV化(車1台あたりの銅使用量はガソリン車の約2~3倍)
  • 風力・太陽光の拡大
  • 送電網の増強
  • データセンターの増設(AIの普及)

国際エネルギー機関(IEA)は、50年の銅需要が2024年比で5割以上増えると想定しています。

需要の“段差”は、供給の伸びよりも速いため、価格上昇圧力を生みます。


(2)供給側の制約:鉱山開発は10年単位

鉱山の新規開発には、

  • 採掘権の確保
  • 大規模投資
  • 環境アセスメント
  • インフラ整備
    が必要で、10年以上かかることも珍しくありません。

つまり「すぐに増産できない」という構造です。

さらに各国で環境規制が強まり、許可の取得が難しくなっています。
脱炭素が進むほど、資源開発のハードルが高まるというジレンマもあります。


(3)地政学リスクの高まり

中国が圧倒的なシェアを持つ資源も多く(例:レアアースの加工シェア80〜90%)、

  • 米中対立
  • 資源ナショナリズム
  • 産地国の政情不安(チリ・コンゴなど)
    が供給不安につながっています。

脱炭素を進める国が増えるほど、特定地域への依存度が問題化し、価格を不安定にする要因になります。


3. “新時代の石油”はどれか?

これからの成長産業を動かす素材は何か。主要金属ごとに役割は異なります。

  • 銅:電力インフラの中核
    電線・配線の要で、AI・データセンターの拡大とともに「新時代の石油」と呼ばれる存在に。
  • リチウム:“電池の血液”
    EVシフトの中心。価格変動が大きく、技術革新の影響も受けやすい。
  • ニッケル:長距離EVの鍵
    高エネルギー密度電池に不可欠。供給はインドネシア集中で地政学リスクも高い。
  • レアアース:風力発電の生命線
    大型タービンの永久磁石の核心で、脱中国依存が世界的課題。

これらはそれぞれ違う役割を果たしながら、脱炭素社会を支える“戦略資源群”となっています。


4. 企業と家計に広がる影響

資源価格の上昇は、製造業や家計にも波及します。

企業への影響

  • 部品・配線・バッテリーコストの上昇
  • 設備投資コストの上昇
  • 在庫リスクの増大
  • 調達先の分散や長期契約の必要性

家計への影響

  • 電気料金の上昇圧力
  • EV価格の上昇
  • 住宅設備の価格上昇(電線・給湯設備・蓄電池)
  • 家電製品の価格上昇

脱炭素の流れは止まりません。資源価格が生活にどこまで波及するかは、今後の大きなテーマとなります。


結論

脱炭素は環境政策にとどまらず、世界の資源需給を大きく揺るがす構造変化を引き起こしています。需要の階段的増加、供給制約、地政学リスクの三層構造が重なり、銅やリチウムをはじめとした戦略資源は価格上昇の圧力を受け続けています。
今後も脱炭素化が加速する限り、資源価格の動きは世界経済のリスクであり、企業や家計が考えるべき重要テーマです。本シリーズでは、こうした変化の中で何が起きているのかを素材別に深掘りし、実務と生活の両面で役立つ視点を提供していきます。


出典

・国際エネルギー機関(IEA)
・国際銅研究会(ICSG)
・主要資源統計(UN Comtrade、世界銀行 Commodity Markets)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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