円安がじりじりと進む中で、政府による為替介入の可能性に注目が集まっています。
しかし今回の局面では、単なる「円買い・ドル売り介入」だけでは収まらない複雑な構図が見えてきました。米国の理解を得るには、まず日銀が金利を引き上げる必要があるという見方が強まっているのです。
10月以降、円相場は1ドル=154円台まで下落し、わずか1か月余りで6円以上の円安が進みました。通常なら日米金利差が縮小すれば円高に向かうはずですが、今回は逆に円安が加速しています。
この動きを「ファンダメンタルズで説明できない投機的な円売り」と見る向きも多く、為替介入の観測を呼び込みやすい状況です。
財務省は過去にも似た局面で介入を実施しています。昨年7月の円買い介入時も、日米金利差が縮小するなかで円安が進行していました。当時の財務官・神田真人氏(現アジア開発銀行総裁)は「金利差の動きに反して円安が進んでいたことが、介入の正当性を裏付けた」と回顧しています。
現財務官の三村淳氏も今月上旬、「為替と金利差の乖離が見られる」と発言しており、昨年と同様の判断枠組みで為替市場を注視しているとみられます。
一方、昨年と大きく異なるのは米国の政権姿勢です。トランプ政権下では、対日貿易赤字を理由に円安を好ましくないと見る傾向が強いとされます。米財務長官ベッセント氏に近い関係者によれば、米側は「日銀が利上げを遅らせていることが円安の原因」と認識しており、介入よりもまず金利正常化を求めているということです。
このため、日本が米国の了解を得て円買い介入を実施するのは容易ではなくなっています。
ベッセント氏自身も「政府が日銀に政策の自由度を与える姿勢が、為替の安定に重要」と投稿しており、日銀の独立性を尊重しつつも、利上げを促すメッセージを発しています。
つまり今回の円安対応では、「介入の前に利上げあり」という構図が鮮明になりつつあります。
高市早苗首相は政調会長時代に「今、金利を上げるのは得策ではない」と述べたこともありますが、首相就任後は発言を慎重にしています。ただ、政権が利上げに慎重姿勢を取り続ければ円安が加速し、結果的に米国との関係悪化にもつながりかねません。
このため、政権としても利上げを容認せざるを得ない局面が近づいている可能性があります。
日銀内部でも10月の金融政策決定会合で、物価上昇の定着を踏まえ「今冬の利上げ」を示唆する意見が出ています。昨年のように「介入→利上げ」という順番ではなく、今回は逆の「利上げ→介入」という展開が現実味を帯びてきました。
結論
今回の円安局面は、単なる投機筋の動きではなく、政策対応の順番が問われる局面です。
米国の理解を得るには、為替介入よりも先に日銀の利上げが必要だという見方が国際的な共通認識になりつつあります。
高市政権がどの段階で金利正常化を容認するかは、今後の円相場だけでなく、物価・賃金・金融市場全体に影響を与える重大な判断となりそうです。
出典
- 日本経済新聞「〈ポジション〉『利上げ→為替介入』の順か」(2025年11月12日付)
- 第一生命経済研究所・藤代宏一氏コメント
- JPモルガン・チェース銀行・棚瀬順哉氏リポート
- 米財務長官ベッセント氏発言(2025年10月下旬)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
