税金は、社会を動かす原動力です。
道路も学校も、医療も福祉も、すべては税によって支えられています。
しかし、税を集める国税、税を説明する税理士、そして税を納める納税者――。
この三者の関係は、ときに誤解や不信を生みがちです。
税を「取る人」と「取られる人」という対立構造ではなく、
「社会を維持するために共に支える人々」としてとらえ直すことが、いま求められています。
1. 国税 ― 公平を守る“見えない行政力”
国税局や税務署は、一般の人にとって縁遠い存在です。
調査や差し押さえといった印象から、「怖い」「厳しい」というイメージを持つ人も少なくありません。
しかし、税務行政の本質は「公平性の担保」にあります。
2023事務年度には、法人税・消費税・所得税・相続税などで5753億円の追徴税額を把握しました。
もしこれらが申告されなければ、財政上の「機会損失」となり、
教育・福祉・医療などの公的サービスに必要な財源が失われていたことになります。
また、滞納整理の現場では、9925億円の新規滞納のうち9488億円を回収。
「税の踏み倒し」を防ぐこの地道な活動も、社会の信頼を支える最後の砦です。
国税は「取り立て」ではなく、「公正の守護者」としての役割を担っています。
2. 税理士 ― 説明と橋渡しの専門家
税理士は、国税と納税者の間をつなぐ「翻訳者」であり、「調整者」です。
申告書の作成はもちろん、税務調査の立会いや、経営判断の根拠づけ、
さらには税制改正の動向を踏まえたアドバイスまで、その職域は広がっています。
とくに重要なのは、「説明責任」と「文書化責任」です。
税理士法第33条の2に定められた書面添付制度は、税理士が自らの判断過程を明示する仕組みであり、
調査リスクの低減や透明性の向上に寄与します。
税理士が誠実な記録を残すことは、納税者の権利を守り、国税との信頼関係を築く第一歩です。
AIやクラウド会計の普及により、数字を処理するだけの「代行者」ではなく、
説明力と倫理を備えた専門職としての役割が、これまで以上に問われています。
3. 納税者 ― 社会を支える“もう一人の行政官”
納税者は、単なる「税を払う存在」ではありません。
申告納税制度のもとでは、自ら所得を計算し、税額を確定する「能動的な行政実務者」ともいえます。
この仕組みを支えるのが、確定申告、帳簿管理、電子申告などの日々の行動です。
つまり、納税者一人ひとりが「税務行政の一端を担っている」のです。
税務署の窓口やe-Taxを通じて行われる申告行為は、社会契約の具体的な実践といえます。
そして、税理士や国税との対話を通じて、制度を理解し、納得して納税することが、
「信頼される税制」を生み出す土台になります。
4. 三者がつくる「信頼の循環」
税務行政は、「国税が徴収し、税理士が支え、納税者が納める」という一方向の流れではありません。
三者が相互に信頼し、情報を共有し、役割を尊重することによって初めて循環が生まれます。
- 国税:透明で公平な課税を行う
- 税理士:適正申告を支援し、説明責任を果たす
- 納税者:誠実に記録・申告し、制度に参加する
この「信頼の循環」が途切れると、制度への不信感が広がり、
結果として税収の減少や、行政コストの増大につながります。
逆に、三者がそれぞれの立場から信頼を築くことで、社会全体のガバナンスが強化されます。
結論
税を支えるのは、国でも官庁でもなく、人です。
国税職員の調査も、税理士の助言も、納税者の申告も、
すべては「公平な社会をつくるための行動」です。
税をめぐる不信や対立を超えて、
「正しく取り、正しく納め、正しく伝える」――その循環が、持続可能な財政の礎となります。
このシリーズでは今後、
- 第2回:国税の現場 ― “見えない行政力”の実像
- 第3回:税理士の使命 ― 信頼と説明責任のはざまで
- 第4回:納税者の自律 ― 誠実な申告が社会を変える
を予定しています。
出典
- 日本経済新聞「国税は納税者の敵なのか」(2025年11月11日付)
- 国税庁「税務行政の現状と課題(令和5事務年度)」
- 日本税理士会連合会『税理士倫理と説明責任』(2024年版)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
