国税は本当に「敵」なのか ― 税務行政の役割を考える

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

国税局や税務署というと、多くの納税者にとって「縁遠く、できれば関わりたくない存在」と感じる人が少なくありません。
税務調査や差し押さえと聞けば、圧力的・権力的なイメージを抱く人も多いでしょう。しかし一方で、国税当局は日本の財政を支える最後の防波堤でもあります。
「税を考える週間」(11月11日~17日)を機に、改めてその役割と意義を見つめ直します。

1. 納税者任せの制度に潜む「乖離」

日本の税制は「申告納税制度」を採用しています。つまり、納税者自らが所得や経費を計算し、税額を申告する仕組みです。
ただし、現実には「あるべき申告」と「実際の申告」との間に乖離が生じることがあります。誤りや認識の違いだけでなく、意図的な過少申告も少なくありません。
この乖離を是正し、税の公平を守るために行われるのが、国税局や税務署による「税務調査」です。

2. 多層構造で成り立つ国税の現場

国税の組織は複雑ですが、役割は明確です。

  • 査察部:裁判所の令状に基づき強制調査(いわゆるマルサ)を行い、悪質な脱税を刑事事件化する。
  • 調査部:大企業(資本金1億円以上、沖縄では5000万円以上)を担当。高度な会計・税務スキームを検証。
  • 課税部・税務署:中小企業や個人事業主、相続税など幅広い分野をカバー。いわば「現場の最前線」です。

2023事務年度(2023年7月~2024年6月)には、法人税・消費税・所得税・相続税などで5753億円の追徴税額が発生しました。
そのうち、本来納めるべき「本税」だけで4731億円に上り、罰則的な加算税は1022億円でした。
もしこれらが申告されずに見過ごされていれば、国家財政にとって大きな「機会損失」となっていたことは明らかです。
金額は、全国の公立小中学校で給食を無償化するのに必要な安定財源(約4832億円)に匹敵します。

3. 滞納税対策と「徴収の最前線」

税の世界には、もう一つの現場があります。それが徴収部門による滞納整理です。
2024年度には9925億円の新規滞納が発生しましたが、そのうち9488億円を回収しています。
差し押さえや公売といった手段を駆使して、税の「踏み倒し」を防ぐ――。これは単なる取り立てではなく、「納税の公平」を守る最後の砦でもあります。

4. 「逃げ得」を許さない仕組み

税逃れは決して割に合いません。帳簿を隠したり虚偽を記載する「仮装・隠蔽」が認定されれば、加算税は最大40%に達します。
さらに、悪質な場合には脱税として刑事事件化され、罰金や懲役が科されることもあります。
一見「国税は怖い」と映る行為も、裏を返せば「誠実に申告している大多数の納税者を守るための制度」といえるでしょう。


結論

国税局や税務署は「敵」でも「味方」でもなく、税の公平を担う中立的な行政機関です。
確かに、調査の現場で摩擦が生じることもありますが、目的はあくまで「税負担の公正」と「信頼される財政運営」の確立にあります。
納税者が適正な申告を行い、国税が透明で公正な執行を徹底する――。その相互信頼こそ、健全な民主社会の基盤です。


出典

  • 日本経済新聞「国税は納税者の敵なのか」(2025年11月11日付)
  • 国税庁「令和5事務年度 査察の概要」「令和5事務年度 税務行政の現状と課題」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました