投資促進へ新たな税制創設の動き ― 高市政権の成長戦略会議が始動

政策

日本経済の成長をどう取り戻すか。
高市早苗政権が掲げる「日本成長戦略会議」が10日に初会合を開き、民間投資を後押しするための新たな税制創設を軸とした経済政策の方向性を示しました。設備投資を促進する税制、いわゆる「即時償却」や「税額控除」の導入が検討されており、企業の投資意欲を刺激する狙いがあります。

しかし、財政負担の拡大や、既存の租税特別措置(租特)との整合性といった課題も浮かび上がります。この記事では、成長戦略会議の狙いと論点を整理します。


成長戦略会議の狙い ― 国内投資のてこ入れ

今回の成長戦略会議は、AI・半導体など17の「戦略分野」を重点テーマとし、国内の産業競争力を高めるための税制・予算措置を議論する場として設けられました。
高市首相は会合で「複数年度にわたる予算措置で投資の予見可能性を高める」と強調し、長期的な設備投資を支える環境づくりに意欲を示しました。

背景には、国内設備投資の低迷があります。2000年度を100とした場合、2023年度の海外向け設備投資は271に増えたのに対し、国内は132にとどまっています。日本企業の業績改善は海外展開に依存する構造となり、国内産業の空洞化や賃上げの遅れにつながったと指摘されています。


税制の柱 ― 即時償却と税額控除

今回注目されるのは、設備投資を促すための税制措置です。候補とされるのが「減価償却費の一括計上(即時償却)」や「投資額の一定割合を法人税から控除する税額控除制度」です。

通常、企業が工場建設や機械導入にかかる費用は耐用年数に応じて数年に分けて減価償却します。これを初年度に全額計上できる即時償却とすれば、初年度の課税所得が減り、法人税の負担が大幅に軽くなります。
現行では中小企業を中心に活用されている制度ですが、これを大企業にも広げることで投資の底上げを狙う考えです。

内閣府の分析では、税制優遇を利用する企業は利用しない企業に比べて設備投資比率が高い傾向があることも確認されています。税制の後押しが実際の投資を動かす効果は一定程度あるといえます。


財政拡張とのバランスと租特見直しの矛盾

一方で、こうした政策は財政拡張につながる懸念もあります。
自民党と日本維新の会が締結した連立政権合意書には、租税特別措置や高額補助金を「総点検し、効果の低いものは廃止する」と明記されており、新たな特例創設はこの流れに逆行するとの指摘もあります。

政府主導の産業振興策は、過去にも成果と失敗の両面を経験してきました。政策効果の点検や、企業の新陳代謝を促す視点がなければ、単なる財政依存に陥る危険もあります。
高市政権としては、成長戦略と財政健全化の両立という難題にどう向き合うかが問われます。


今後の焦点 ― 賃上げとの両輪で成長を実現できるか

重点施策案では「賃上げ促進税制の活用によるモメンタム維持・向上」も盛り込まれました。企業の設備投資を通じて生産性を高め、賃上げの持続性につなげる構想です。
ただし、賃上げ促進税制の有効性については政府内でも意見が分かれています。賃上げを「税のインセンティブ」で促すだけでは限界があるため、実際の業績向上・人材投資・国内需要拡大をどう結びつけるかが今後の焦点です。


結論

即時償却や税額控除による投資促進策は、企業の資金繰りを改善し、国内投資を再び動かす可能性があります。
しかし、新たな租特を設けることは財政の持続性とのトレードオフを伴います。重要なのは、政策の「数」ではなく「質」、すなわち日本企業が再び国内に目を向けるための構造的な成長戦略をいかに描けるかという点です。
税制だけでなく、規制改革や人材育成といった要素を組み合わせた総合的アプローチが求められています。


出典
日本経済新聞「投資促進へ税制創設 成長戦略会議が初会合」(2025年11月11日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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