年収の壁と向き合う ― 「あと8万円働ける」社会の現実

FP
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「あと8万円働けます」。アルバイト先でこんな言葉を耳にする学生や主婦の方も増えているのではないでしょうか。
近年、パートやアルバイトの「年収の壁」問題が注目を集めています。税制上の扶養と社会保険上の扶養では基準が異なり、制度が複雑なため、働く側も雇う側も対応に苦慮しています。
2025年の税制改正では、高校生や大学生の扶養控除が見直され、扶養内で働ける年収の上限が再び変わりました。いま、企業や家庭はどのようにこの「壁」と向き合っているのでしょうか。

「年収の壁」とは、一定の年収を超えると税金や社会保険の負担が増え、手取り収入が減る仕組みを指します。代表的なラインは、税制上では103万円・130万円・201万円など、社会保険では106万円・130万円・150万円といった複数の壁が存在します。

この複雑な構造が、働く時間や収入の調整行動を引き起こしてきました。時給が上がると働ける時間が減り、結果として「人手不足を助長する」という悪循環が生まれています。

外食大手のすかいらーくホールディングスでは、こうした課題に正面から取り組みました。同社は全国の店舗スタッフ約10万人の勤務時間や収入をデータベース化し、店長が「あと何時間・いくらまで働けるか」を即時に確認できる仕組みを導入しました。収入を1円単位で管理し、扶養を外れる手前で働き方を調整できるようにしたのです。

さらに、2024年から翌年5月にかけてオンライン勉強会を100回以上開催。学生や主婦といった立場ごとに、税制・社会保険の扶養条件や加入のメリットを丁寧に説明しました。親や配偶者にも理解を深めてもらうため、YouTube動画での解説や個別相談窓口も設けました。

その結果、同社のパート・アルバイト全体の勤務時間は前年度より約3万4000時間増え、社会保険加入者も約800人増加。人手不足感は和らぎ、従業員からも「安心して働けるようになった」との声が上がっています。

この取り組みは、「年収の壁」を単に避けるのではなく、正確に理解し、働く側と企業が協力して乗り越えるという新しい方向性を示しています。


結論

年収の壁は、税制・社会保険・雇用制度の交差点にある構造的な課題です。働く人が「どこまで働いていいのか」を不安に感じ、企業が「シフトを組めない」と悩む背景には、制度の複雑さと情報不足が根強くあります。

しかし、すかいらーくのように情報を見える化し、勉強会を通じて正しい理解を広げることで、労働時間の調整や人手不足の改善につながる可能性があります。

これからの時代、制度の単純化とともに、企業と働き手が「知識で壁を越える」取り組みを進めていくことが求められます。働き方の多様化が進む今こそ、扶養制度を理解し、ライフステージに応じた最適な働き方を選ぶ力が重要です。


出典

  • 日本経済新聞「<お金のリアル>年収の壁(中)『あと8万円働ける』」(2025年11月8日)
  • 厚生労働省「被扶養者認定基準の見直しについて」
  • 財務省「所得税法上の扶養控除制度の概要」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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